324: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:32:17.45 ID:s8phhYh5O
日々の内容に大した差異はないはずだが、明確な目的を認識するだけで気の持ちように変化が現れる証左だ。
Pは満足げに頷いて、修理を終えた機材に火を入れた。
買ってきた時点ではうんともすんとも云わなかったディスプレイが、明るく反応する。
325: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:33:02.55 ID:s8phhYh5O
鼻歌を奏でながら、一緒に入手した中古の鍵盤を接続して動作を確認していると、
事務用品の補充に外出していたちひろが戻った。
Pの予想よりも早い帰社だった。
326: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:35:01.93 ID:s8phhYh5O
本日のレッスンスタジオまでの道のりは、あっという間だった。
つい先刻から、不思議なほど非常に身体が軽い。
327: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:35:32.08 ID:s8phhYh5O
普段、凛だけでなく卯月や未央を鍛えてくれている明や慶に、よく似たその女性。
しかしトレーナー二人より年齢を重ねているように見え、何よりも纏うオーラが桁違いに強い。
非常に失礼なことながら、Pは彼女を顔をじっと凝視した。
328: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:36:02.34 ID:s8phhYh5O
青春時代の、異性の象徴。
同級生たちと、ときには熱く魅力を語り合い、ときには下世話な談笑の種として存在し続けた、トップアイドル。
社長がかつてプロデュースしていたその女性―ひと―が、今はレッスン教室を主宰しているとは聞いていたが。
329: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:36:32.14 ID:s8phhYh5O
その言葉にはっと意識を取り戻し、しかし脳味噌は取り乱したままで、
「はい、CGプロ、渋谷凛を担当するPです。あの、ずっと、貴女のファンでした! いや今でもファンです!」
とアイドルプロデューサーらしからぬ発言をしてしまう。
330: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:37:01.85 ID:s8phhYh5O
「とてもありがたいが……私はとっくに引退した身だし、今ではただの教官に過ぎないぞ」
「それでも、自分にとって、貴女は永遠のトップアイドルなんです」
「……嬉しいね。社長がこの場にいたら、きっと彼も喜んだんじゃないかな」
331: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:37:32.00 ID:s8phhYh5O
「なに、今日はオフだ。私自身は契約の身ではないが、妹たちが世話になっているからな」
きちんと指導できているかをチェックしに来たのさ、と破顔する。
この人にかかれば、明たちトレーナー陣もレッスン生と化してしまうようだ。
332: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:38:28.46 ID:s8phhYh5O
普段のPと同様、麗もレッスンそのものを邪魔するのは気が引けるらしい。
マスタートレーナーたる私が修練の邪魔をしては元も子もないからな、
とはスタジオの様子を窺える隣の部屋へ静かに入る時の彼女の弁だ。
333: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:39:16.41 ID:s8phhYh5O
スタジオから漏れ聴こえるダンスミュージックに呼応して、Pの踵が動きを刻み、手先は跳ねる裏拍を叩く。
ノリの良い曲を聴くと、気分が高揚して楽しくなるのは何故だろうか。
人の身体を勝手に動かしてしまう、音楽のチカラとは不思議なものだ。
334: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:39:57.91 ID:s8phhYh5O
手にした自らのノートに目を落として、少しだけ時間を稼ぐ。
正直、Pは凛の“どこが悪いのか”までは明確に掴めていなかった。
ただ何となく、何かがまだ甘い。そんな意識しかなかったのだ。
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