328: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:36:02.34 ID:s8phhYh5O
青春時代の、異性の象徴。
同級生たちと、ときには熱く魅力を語り合い、ときには下世話な談笑の種として存在し続けた、トップアイドル。
社長がかつてプロデュースしていたその女性―ひと―が、今はレッスン教室を主宰しているとは聞いていたが。
329: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:36:32.14 ID:s8phhYh5O
その言葉にはっと意識を取り戻し、しかし脳味噌は取り乱したままで、
「はい、CGプロ、渋谷凛を担当するPです。あの、ずっと、貴女のファンでした! いや今でもファンです!」
とアイドルプロデューサーらしからぬ発言をしてしまう。
330: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:37:01.85 ID:s8phhYh5O
「とてもありがたいが……私はとっくに引退した身だし、今ではただの教官に過ぎないぞ」
「それでも、自分にとって、貴女は永遠のトップアイドルなんです」
「……嬉しいね。社長がこの場にいたら、きっと彼も喜んだんじゃないかな」
331: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:37:32.00 ID:s8phhYh5O
「なに、今日はオフだ。私自身は契約の身ではないが、妹たちが世話になっているからな」
きちんと指導できているかをチェックしに来たのさ、と破顔する。
この人にかかれば、明たちトレーナー陣もレッスン生と化してしまうようだ。
332: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:38:28.46 ID:s8phhYh5O
普段のPと同様、麗もレッスンそのものを邪魔するのは気が引けるらしい。
マスタートレーナーたる私が修練の邪魔をしては元も子もないからな、
とはスタジオの様子を窺える隣の部屋へ静かに入る時の彼女の弁だ。
333: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:39:16.41 ID:s8phhYh5O
スタジオから漏れ聴こえるダンスミュージックに呼応して、Pの踵が動きを刻み、手先は跳ねる裏拍を叩く。
ノリの良い曲を聴くと、気分が高揚して楽しくなるのは何故だろうか。
人の身体を勝手に動かしてしまう、音楽のチカラとは不思議なものだ。
334: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:39:57.91 ID:s8phhYh5O
手にした自らのノートに目を落として、少しだけ時間を稼ぐ。
正直、Pは凛の“どこが悪いのか”までは明確に掴めていなかった。
ただ何となく、何かがまだ甘い。そんな意識しかなかったのだ。
335: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:40:48.49 ID:s8phhYh5O
「ですが、身体の感覚の話で良いのなら……リズム感がまだ拙いかな、と思います」
そう。
凛自身は一定のテンポを保っているつもりなのだろうが、実際はかなりふらつきがあった。
336: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:41:16.51 ID:s8phhYh5O
「そうだな、P殿。ダンスに於いて最も重要なのは、ステップのテクニックなどではない」
麗は眼を閉じて「リズムを一定に維持すること、これに尽きる」と息を吐いた。
踊る表現力が幾分か稚拙であろうとも、歌が多少音痴であろうとも、拍子さえ安定していれば、鑑賞に堪える。
337: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:41:44.94 ID:s8phhYh5O
彼は現場を混乱させる可能性を危惧して、レッスンの内容に口を出すことはしなかった。
毎度、邪魔をしないよう隣から見守るのだ、凛はおろか明や慶までPの存在を認識していないかも知れない。
もちろんトレーニングの様子はしっかり見ているし、それを受けてプロデュース方針にこまめに手を入れている。
879Res/463.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。