345: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:46:48.34 ID:s8phhYh5O
「種明かしは簡単さ。訓練を受けてない人間が、裏拍でリズムを取ることはまずないよ。特に日本人はね」
箏曲や囃子など、西洋の文化がもたらされる前の伝統音楽に思いを馳せれば、表拍子を刻むものが大多数だ。
さらに元を辿ってゆけば、唄による感情表現が最優先となり、一定の律動を刻むという習慣さえなかった。
346: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:47:17.46 ID:s8phhYh5O
「西洋式の拍の取り方を知っているなら――即ち訓練されたことがあるなら、それを彼女へP殿から伝えるんだ」
Pは麗の目をしっかり視て、一度だけ、強く首を縦に振った。
「……わかりました。すぐにでも準備します」
347: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:53:42.41 ID:s8phhYh5O
レッスンから戻った凛を、半ば拉致するようにやって来たのは、井の頭線は新代田『フォーエバー』。
キャパシティは数百人と、決して大きいとは云えないライブハウス。
348: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:54:44.71 ID:s8phhYh5O
「しかも何だ、新しいバンドでも組んだのかと思ったらJK同伴で二人だけの貸切たぁ、妙な使い方じゃねえか」
「いやーすいません、ここならきっと便宜を図ってくれると信じてたんで」
「ったく都合のいいハナシだぜ」
349: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:55:14.69 ID:s8phhYh5O
フロアに入り、ドアを閉めると、借りてきた猫の如く押し黙っていた凛が、ようやく口を開く。
「……あの人とは知り合いなの?」
「ああ、昔、ちょっとな」
350: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:55:54.52 ID:s8phhYh5O
「何も聞いてないよもう! ていうかプロデューサーが私に特訓って何? さっきレッスンしたばかりじゃない」
両手をカーデガンのポケットに突っ込んだまま、凛は口を尖らせ抗議を寄越した。
「慶ちゃんたちトレーナーさんとは違うアプローチでな、お前のリズム感を鍛えるんだ」
351: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:56:28.06 ID:s8phhYh5O
シンプル・オブ・シンプルで展開が非常にゆっくりな、電子音の羅列。
一歩間違えば、ただ単調な音楽として烙印を押されかねないのに、不思議と格好良いと思えてくる音楽。
かつて電子機材が貧弱だった時代、その制約を逆手に取って生み出された芸術、ミニマルテクノだ。
352: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:56:58.24 ID:s8phhYh5O
「凛。お前は、ぶっちゃけ云えばリズムがだいぶ拙い」
Pの正直な指摘に、自覚のなかった凛は目を丸くした。
「え? 私の中では正確に刻んでいるつもりなんだけど……」
353: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:57:31.91 ID:s8phhYh5O
「はいOK」
Pが制すると、手にはマイク付きのレコーダー。凛のクラップを録音していた。
「じゃあ聞いてみよう」
354: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:58:01.79 ID:s8phhYh5O
Pはそれをラップトップコンピュータに取り込み、波形として表示した。
手の鳴るタイミングごとに切り取って並べると、長さが全く揃っていないことを文字通り“見せつけ”られる。
「聴覚だけだと結構あやふやだけどさ、こうやって視覚化すると、結構……心にクるだろ?」
355: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:58:32.42 ID:s8phhYh5O
再度、ブースの機材でミニマルテクノを流し出して問う。
「凛は普段、どんな曲を聴いている?」
「いつも聴いてるのは特にこれと云ったこだわりはないけれど……音楽番組を見て気になる曲を買う程度、かな」
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