468: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:26:01.59 ID:s8phhYh5O
そのまましばらく目線を交わらせ、
「……ごめん。その……色々と」
深めに頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。
469: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:26:30.28 ID:s8phhYh5O
「着拒されたから、俺のプロデュース人生が終わったかと、結構本気で思った」
「麗さんにね、お前は早合点する癖がある、って……諭されちゃった」
Pは、自分の知らないところで橋渡しをしてくれた麗に心の中で感謝した。
470: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:27:00.70 ID:s8phhYh5O
「こないだ負けて、まだまだだって思い知らされた。だけど、これから頑張ってあのレベルまで成長できても、
その頃にはみくだって同じように力をつけて、もっと先に行ってるよね……」
握る手に、不安の力がこもる。
471: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:27:46.15 ID:s8phhYh5O
「パラ、ドックス……?」
「そうだ。そのパラドックスは一見、正しいことを云っているように思えるんだよなぁ」
古代ギリシャ人を悩ませた有名な逆理。
472: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:28:25.67 ID:s8phhYh5O
10メートル先を秒速1メートルで歩く人間がいたとして、それを秒速3メートルで追い掛ければ――
5秒後には追い付いて、6秒後にはその人より2メートル先へ飛び出ている。
哲学的に考えれば袋小路へ陥りそうでも、数学的に考えれば至極単純なこと。
473: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:29:10.65 ID:s8phhYh5O
確かに、凛……いや俺たちはあのとき負けたが、打ち負かされること自体は、何ら恥じ入る必要などないと思う。
“打ち負かされたまま、立ち上がろうともせずにいる”――それこそが、恥ずべきことなんだ。
474: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:29:41.55 ID:s8phhYh5O
ただし。
一流の人間は、あらゆる努力を払って速やかに立ち上がろうと努める。
475: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:30:43.05 ID:s8phhYh5O
「速やかに……立ち上がる……」
凛が、やや哀し気な表情で繰り返した。きっと、ここしばらくの自分の体たらくに想い至っているのだろう。
476: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:31:10.62 ID:s8phhYh5O
「切り替えなきゃね。いつまでも腐ってちゃ……いけないんだ」
凛の心に、これまで心配をかけた人たち、そして見守ってくれた人たちへの、感謝と申し訳なさが押し寄せる。
察したPが、努めて明るく云い聞かせようと、凛の目を覗き込んだ。
477: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 06:32:08.23 ID:s8phhYh5O
「……ちょっとだけ、泣かせて貰っていい? 今更さ、悔しくて悔しくて……堪らなくなってきちゃった」
「……ああ。むしろ俺はあの刻、泣きも喚きもしなかった凛を妙だと感じたもんだ。泣いて泣いて洗い流そう」
「ふふっ、キザったらしいね……」
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