816: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:20:20.78 ID:3+pD+bLQo
 「こりゃ俺はメシ抜きだな。コンビニ寄ってお前の分だけ買うから車の中で軽く食え」 
  
 「わかった。私が現場入りしたらゆっくり食べてよ」 
  
 現在地の台場からブーブーエスのある赤坂までは、車を使っても鉄道を使ってもかなり面倒だ。 
817: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:20:48.80 ID:3+pD+bLQo
 「お、これは金本ディレクター、なかなかご一緒する機会がなく、ご無沙汰しております」 
  
 走る足を止めて、凛とともに会釈した。 
  
 「色々と噂は聞いてるよ。フェスでは相当お世話になったみたいだね、勿論、普段も」 
818: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:21:16.96 ID:3+pD+bLQo
 「今度さ、俺の企画で一件、かわいい子を使いたい番組があるんだけど、渋谷凛ちゃん、是非どうかな?」 
  
 収録と放映のスケジュールを併せて伝える金本に、Pは懐から手帖を取り出した。 
  
 「あぁ、申し訳ありません、その放映タイミングだと“汐留”から電波に乗っちゃいますね」 
819: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:21:46.22 ID:3+pD+bLQo
 実は、Pは裏でこっそりと、金本が手掛けるほとんどの番組の裏に、凛の出演をアサインしていた。 
  
 金本へのささやかな意趣返し。 
  
 「それに、渋谷凛はまだまだ青二才です。華の金本ディレクターの看板番組には、 
820: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:22:12.66 ID:3+pD+bLQo
 「そうかあー、今回は残念だけど、次、都合が合えば是非とも宜しくね」 
  
 金本は、眉の尻を下げて笑ったが、屈辱によって虚勢を張った声になっているのは隠し切れていなかった。 
  
 「ではすみません、“赤坂”へ急いで行かなければなりませんので、これで」 
821: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:22:40.26 ID:3+pD+bLQo
 埋立地特有の無機質な道をすいすい転がっていく社用車の中で、凛が控えめに笑って息を吐く。 
  
 「たぶん、今年に入って一番痛快だったと思うよ。ありがとね、プロデューサー」 
  
 「そりゃあな。凛みたいな素晴らしいアイドルを虚仮にする糞野郎には容赦なんてしねえよ。 
822: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:23:06.84 ID:3+pD+bLQo
  
  
 ―― 
  
 それと時期を前後して、CGプロ社内スタジオでは。 
823: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:23:36.46 ID:3+pD+bLQo
 「渋谷、P殿からそれらしい話は耳に入れられているし、君のその心意気は認めるが…… 
  身体への負担を考えるとあまり賛成はできないな」 
  
 「覚悟の上です。リスクのない成長なんて、ないと思っています」 
  
824: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:24:04.59 ID:3+pD+bLQo
 暗闇坂も大黒坂も、麻布で有名な坂道。 
  
 大黒坂はほどよい勾配で道幅も狭すぎず広すぎず、地元の人のランニングコースになっている。 
  
 対して暗闇坂はかなり急な心臓破りの坂で、道幅もだいぶ狭い。 
825: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:24:34.34 ID:3+pD+bLQo
 「わかりました」 
  
 そう云って凛はレッスンウェア姿で出てゆき、きっかり四十分後、 
 ボロ雑巾のように髪を乱し汗だくの状態で帰ってきた。 
  
826: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:25:02.04 ID:3+pD+bLQo
 「私は、誰にも負けたくない。勿論、麗さんにだって負けたくない。だからこそ、麗さんの指導が必要なんです」 
  
 荒い息に喉を鳴らしながら、「お願いします」と食らいつく。 
  
 麗は、大きく息を吐いた。 
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