過去ログ - 白菊ほたる「かげろう、プロデューサーさん」
1- 20
20:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:47:36.62 ID:cI/SoD+oo
 携帯電話の鳴る音に気づいて飛び起きたのは多分、ほたるちゃんのことが気にかかっていたからだった。
 もしもし! なんて電話を取ったけれど、この間スーツを預けたクリーニング屋だった。

 肩透かしを食らって、気の抜けた受け答えをしつつ、横目で時計を見るとまだ正午過ぎだった。
 ほたるちゃんが電話をしてくるとしたら、学校が終わってからだろうから、まだ早い。
以下略



21:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:48:02.08 ID:cI/SoD+oo
 餅は餅屋と言うが、流石はプロだと思った。
 コーヒーの染みも、しわも消え、スーツはまるで生まれ変わったようだった。

 家へ持ち帰ると、ビニールから取り出して、袖を通してみる。
 鏡に映る自分は以前よりマシだが、まだ胡散臭かった。
以下略



22:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:48:37.13 ID:cI/SoD+oo
 彼女は今も待っているのか? この胡散臭い男を。
 信じさせる気もない、湿気ったマッチみたいな嘘に、胸をときめかせて。
 悪いことをしてしまった。そう思う。

 心が痛むか? だが、今のままで傷つくのはほたるちゃんだけだ。
以下略



23:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:49:06.84 ID:cI/SoD+oo
「真面目そうな髪型にしてください」

 俺がそう言うと、理容師はちょっと困った顔を見せた。

「短めに切るってことッスかね?」
以下略



24:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:49:33.80 ID:cI/SoD+oo
 俺は駅へと歩いて行く。
 クリーニング済みのスーツ、さっぱりと短い髪、髭の剃り残しはなく、この夕方に紛れる俺は人の目にどう映るのだろう。
 ほたるちゃんは、どう思うだろう。

 人々を飲んでは吐く駅の前、俺はほたるちゃんを探した。
以下略



25:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:50:30.17 ID:cI/SoD+oo
「君、ちょっと、いいか」

 手を伸ばして、肩を叩く。振り向いたほたるちゃんの表情は、この世の終わりみたいだった。

「僕だよ。……ほら、プロデューサー」
以下略



26:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:51:39.75 ID:cI/SoD+oo
「それより、会えてよかった。話したいことがあるんだ」

「あ、その……私、何度も電話して、お金のことも……あの、二千円だけなら」

 ほたるちゃんはゴソゴソとポケットから封筒を取り出した。
以下略



27:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:52:10.51 ID:cI/SoD+oo
「実は……プロダクションが倒産してしまったんだ」

「ええっ!? と、倒産だなんて……」

 俺が大げさに言うと、ほたるちゃんは同じくらい大げさに驚いた。
以下略



28:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:52:41.53 ID:cI/SoD+oo
「ごめん」

 俺の言葉はあまりに軽すぎる。
 それは軽い嘘をどうにか終わらせるために出た言葉だからだった。

以下略



29:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:53:13.40 ID:cI/SoD+oo
「私が関わると、全部ダメにしちゃって……きっと、プロダクションも私のせいで……」

「いや、そんなことはないよ?」

 もともと、ありもしないプロダクションなんだから。
以下略



30:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:53:46.30 ID:cI/SoD+oo
 いつの間にか、日は随分と傾いていた。
 橙ののっぺりとした空を背に、黒い影があらゆる方向へはじけ飛んだ。
 熱が逃げていくように東の空は青白く、西の空を蝕み始めていた。
 その景色も、たくさんの人も、俺たちだって、一週間前となにも変わりはないのだ。
 それなのに、代わりはない。それが悲しい。
以下略



39Res/21.01 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice