16:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:28:16.68 ID:iHsws6qc0
不純な愛は対象をよく知ろうと欲して、その過程で愛に値するものとしないものとをふるい分ける、愛する故に憎しむというアンビバレンスはここで生まれる。不純な愛に関する洗練は基準を徐々に厳しくすることでなされていく。そして、しまいには基準をクリアするような愛に値する対象は砂粒程度になるという結末を迎え、「愛に値する対象が無い」と嘆く羽目になるのだ。
無対象を愛する純愛にそのような破局の心配はない。ただ困ったことには、榛名が提督を純粋に愛する時、その対象である提督とは何者かが不明になるという問題を抱えざるをえなかった。
榛名は布団から出た。大窓からはいまだ朝日が執務室に差し込んでおり、榛名の裸体を黄色く照らし出した。花火を見るため夏に改装した大窓は縦滑り式に少しだけ開けられており、そこからふかまった秋の冷たい朝風が室内のフラワーアレンジメントを幽かに揺らしている。提督の死体を発見した時から既に相応の時間が経過したはずだったが、榛名が操作したところ以外の状況は何も変わっていなかった。
少し変に感じた榛名は窓から裸体が丸見えになるのも構わず、大窓の縁に手を掛けて大きく押し開けた。途端に風はやみ、朝日は閉ざされた。空と海は真っ黒だった。何かに染められたという風ではなく、完全に空と海は非物質的で観念的な黒色に置き換えられている。鎮守府の埠頭や桟橋がそこにめり込むように存在を主張し、普段は味気ない灰色の港倉庫の風景が明度彩度の高さで最も目立っている。
空と海に成り代わった黒色はただ黒いだけではなく「NO DATA」という赤文字を浮き彫りにしていた。「NO DATA」の赤文字は一つではなく列を作るように並び、見えないノートの罫線にでも沿うようにして何列にも平行に横並びしている。
また、空と海は同じ「NO DATA」であるにもかかわらず、溶け合うことはなく、各々の「NO DATA」の方向を貫くため、襟を合わすようにして「NO DATA」の文字列は互いに逆向きに重なり合い、そのズレ部分が黒い海の果てに主観的輪郭としての水平線を形作っている。
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