過去ログ - 【悪魔のリドル】春紀「あれから」
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15: ◆UwPavr4O3k[saga]
2016/02/04(木) 04:12:41.22 ID:dbDR2CMg0



 兎角「―――い。おい、聞こえてないのか?」



綺麗に皺が伸ばされたハンカチが私の頬に押し付けられた時、全ての寒気が払われていった。

自然に荒くなっていた息を胸に手をあてて整える。軽く会釈して、差し出されたハンカチを受け取って首回りと額の汗を拭う。


 ニオ「すいません、ありがとうございます。あの、これ、洗って返しますね」

 兎角「出来ればそうしてくれ。………寒河江はどうなった?」


救急車に連絡した後。

まず第一に連絡しようと思った相手は彼女だった。

これは春紀さんにも言ってなかったけど、こっそり連絡先を交換していた私達は、少しずつだけど打ち解けた。

東さんにとって、私の顔は仇敵のまま。できる限り見たくもないだろうから、最初の頃はずっとマスクをつけたり、工夫した。

でも彼女は、少しだけ口元を緩めて、不器用な表情で、


 兎角『今のお前は今のお前だろ。もしも厄介事が起きたら、私に連絡しろ。晴に届く前に手くらい貸してやる』


その一言に私はどれだけ救われたか。それ以来、顔をわざと隠す事はやめた。

なんだか、隠す事自体が失礼だと思ってしまったから。


 ニオ「……左目、もう見えなくなってしまうかもしれないらしいです。」

 兎角「……そうか」

 ニオ「私が、あの時、もっと早く……"この力"に気付いていれば」

 兎角「走り鳰の幻術か」

 ニオ「皮肉、です。私のこの力のせいで色んな人達に迷惑をかけたのに、この力を頼らなきゃ、私は何もできなかった」

 兎角「……お前は、その幻術を扱えたのか?」

 ニオ「強く念じて、思いを叫んだら、視界が鮮明に広がって黒服の人が苦しんでいました。」
 
 兎角「お前は現場に居た相手の風貌を覚えているか?」

 ニオ「……黒いフード付きのコートに、銀髪。瞳の色はくすんだ様な灰色。」

 兎角「……心当たりがある。だが、ソイツは暫く行方を暗ましている。出てきたって事は、"走り鳰"を殺す準備が整ったって事だろうな。」

 ニオ「殺す、準備?」

 兎角「要は気持ちの問題だろう。踏ん切りがついたんだろう、ヤツにとって親しい人間が死んだ事に。」

 ニオ「……」

 兎角「お前はどうする。もし私がお前の立場なら、何て優しい言葉は私には言えない。だが、」


静かに立ち上がった東さんは、それまでの無表情に少しだけ感情の色を乗せて口にする。


 兎角「ニオはニオだ。お前は寒河江にとって、左目を失ってでも守るだけの"存在"だった事を、しっかりと受け止めろ」


それだけを口にした黒いコートを纏った青髪の彼女は、長い廊下を歩いて立ち去って行った。






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