23:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:48:36.64 ID:/p0Ll9udO
毎朝の軽やかな動きで、僕の顔は焼きたてのふかふかな顔へと変わった。
僕は自分の顔を洗ったことはないけど、きっと顔を洗うのと同じくらい清々しいことなんじゃないかと思う。
元気な明るい心で満たされていく僕に、ジャムおじさんが微笑みかける。
「顔の調子はどうかな?」
「今日もとてもいいです」
僕の言葉に嘘はなく、僕もジャムおじさんに微笑もうと、口元の力を抜こうとした。
だけど、僕の顔は強ばったままだった。
なぜ、こんなにジャムおじさんの前で呼吸をするのが辛いのだろう。
僕はぎこちなく笑って、ジャムおじさんのそばをそっと離れた。
「あの、そろそろパトロールへ行ってきますね」
「ああ、頼んだよ。それじゃあ、私たちもアンパンマンを見送ろうか」
「はい!」
元気よく答えるバタコさんの顔に、影は見当たらない。
僕は当たり前のことにほっとして、当たり前のことにがっかりした。
どうして、がっかりするのだろう?僕はどうしたんだろうか。
僕は考えるのをやめたくて、二人から逃げ出すようにパン工場の外に出た。
遠い空へ飛んでいく僕を、二人と寝ぼけ眼のチーズが手を振って見送ってくれた。
「なんだか、おかしいなぁ。僕は……」
心の中のもやもやが、湿り気を帯びて僕の温かい部分に染み込んでいくような、そして温度を奪っていってしまうような、暗い気持ち。
僕はその気持ちを表現する言葉をあまり知らなかった。
そう、僕はなんにも知らないのかもしれない。
そんなそこはかとない恐怖も、忍び寄るように僕を襲った。
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