2:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:03:37.82 ID:RtjcYatA0
「がんばります」
この言葉は、物心ついたときから私の口癖だったそうです。
ひらがなを教えてもらっているとき、じゃあ次はもっときれいに書けるようにがんばろうねというママの言葉に、私はやる気を滾らせてがんばりますと答えました。
3:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:10:46.04 ID:RtjcYatA0
中学校の合唱祭、練習をサボる男子とそれに不快感を示す女子というどこにでもあるような諍いの中、いわゆる友達の多い子だった私は、気付けばクラスの対立を収める役割を引き受けることになっていました。
多感な生徒たちに手がつけられなくなった先生から、合唱祭に打ち込みたい女子から、本当は真面目にやりたいけれども引っ込みがつかなくなった男子から、気付けば私は平和の象徴のように祭り上げられていました。
クラス中の期待を一身に背負った状況の中で私が言える言葉はひとつしか無くて、私は口角を上げ、目尻を下げ、極力元気な声でがんばりますと胸を張ってみせました。
4:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:13:05.38 ID:RtjcYatA0
高校に入って初めての定期テスト前、何人かで集まって開いていた勉強会である日、友達が私の計算ミスを見つけました。
私は中学時代の成績が可も無く不可も無くといった感じでしたから、周りには勉強はあまり得意でないと公言していました。
指摘してくれた友達は勉強が得意だったようで、すこし得意げに「卯月、もっとがんばんないとダメだよー、高校の勉強は今までと違うんだからさー」だったと思います、私をからかいました。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:16:30.29 ID:RtjcYatA0
養成所のレッスン生時代は、今までで一番がんばりますと言ったかもしれません。
歌にダンスに演技と、どれも未経験もしくは人並みだった私は、トレーナーさんに誰よりもダメ出しをされました。
音程が甘い、テンポが遅れている、ステップを踏み間違えるな、役に入り込めていない。
6:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:27:49.74 ID:RtjcYatA0
アイドルデビュー直後、売り出し中のアイドルとして活動をはじめてからも、私は自分に他人に、がんばりますと声をかけ続けました。
これまで,ステップを間違えないようにという具体的なアドバイスから、クラス内の対立をなんとかしてほしいというぼやっとした期待まで、いろんなことに対して発してきたがんばりますという口癖は、10年以上言い続けてきたものでしたから、念願叶ってアイドルになった後もまだ口癖のままです。
ユニットの仲間は私と言えばがんばりますだと言ってくれますし、ファンの方々もこれが口癖なのだと認識してくださっているみたいで、がんばりますは私のトレードマークになっていました。
7:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:31:14.15 ID:RtjcYatA0
頭の中で声がする、といっても別段苦労をすることはありませんでした。
がんばらなければいけないと聞こえるのだから、ただがんばればいいんです。
レッスン、ミーティング、お仕事、オフのときの情報収集、アイドル仲間との関わり、あらゆるものが私のがんばりの中に含まれていきました。
8:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:38:42.62 ID:RtjcYatA0
そして今,ついに私は自分が1人だけ売れて看板アイドルとなった理由を知りました。
ライブ後の反省会でのことでした。
全体として見ればとても盛り上がって大成功のライブでしたが,実際にステージで歌い踊っていた人間だから気付く反省点や改善点は当然あって,プロとしてライブ後の反省会はどんなに良いライブであったとしても行われます。
9:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:39:26.23 ID:RtjcYatA0
通常の読点(、)とカンマ(,)が混交していて読みにくいかもしれません,すみません。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:47:03.00 ID:RtjcYatA0
瞬間,私が感じたのは既視感でした。
そうだ,前にもこんな場面は幾度となくあったなと思い出します。
その度に私は彼女たちに,自分が至らなかったと述べ,がんばりますと宣言してきました。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/03/14(月) 21:48:25.24 ID:RtjcYatA0
私は人のがんばる種を奪って花を咲かせる盗人で,がんばります泥棒とでもいうべき存在でしかなかったのです。
頭の中の声が命じるままにあらゆることを自分のがんばりへと変えていった結果は,周りの人の成長を食べ物にし,笑顔でそれを公言する歪な偶像でした。
罪深いことに,なんとなくではありましたが,私は自分のがんばり方がおかしくなっていることに気づいていました。
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