2: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:44:20.06 ID:uE9Ah2ja0
『私達の、欠点?!』
仕事と仕事の合間、ほんの少しだけでも事務所に顔を出して欲しいと彼に頼まれたので、マネージャーさんの車を急がせて事務所についた時、ドアの向こう側から高低入り混じった、一斉の声が聞こえた。
思わずびくりと体が硬直し、しばらくドアをノックするのをためらってしまう。
3: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:45:09.84 ID:uE9Ah2ja0
彼の熱意に押されてか、最初は乗り気ではなさそうだった他のみんなも、段々と真剣な表情をして耳をすませる。
しんと静まり返り、あの人の声だけが響く事務所の中、不意にキィとドアが軋んだ。
「っ」
4: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:46:03.52 ID:uE9Ah2ja0
あ、書き溜めアリです。遅かったですけど、地の文あります。
5: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:46:58.13 ID:uE9Ah2ja0
私が列の中に入って行ったのを確認すると、あの人はわざとらしく二、三回咳払いをして再び語り始めた。
曰く、欠点を客観視する事の重要性。曰く、欠点を長所に変化させる事で増す魅力等。
限られた時間の中、何度も鏡の前で練習したのであろう理路整然としながらも力強い言葉は、私がスカウトされた時の事を思い出させる。
6: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:47:58.20 ID:uE9Ah2ja0
「そんなワケで、各自、自分で思いつく自分の欠点を書いてきて欲しい。内容が内容だけに強制はしないが、協力してくれると提案した俺としては嬉しい」
彼がそう締めくくると、私の周りの人達は散り散りに去って行った。
ある人は、仕事があるからとそそくさと事務所から出ていき、ある人は、せっかく集まったのだからとオフのアイドルを誘って街へ出かける話をしている。
7: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:48:45.41 ID:uE9Ah2ja0
「自分の欠点を纏めて……それを、プロデューサーさんに提出するんですよね……?」
「そうだな。そんで俺から見て、その通りだと思ったところや、そうじゃないと思ったところにコメントを書いて返す。なんか先生みたいだな」
「それは……どれだけ書いても、ですかぁ?」
8: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:49:41.27 ID:uE9Ah2ja0
次の仕事現場では、少し表情が硬いと注意された。
その次のテレビ番組では、上手く喋れなくて、何回かNGをもらってしまった。
移動中の車の中でも、マネージャーさんから体調が悪いの?と心配されてしまった。
9: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:50:43.40 ID:uE9Ah2ja0
ノートの表紙に赤いペンで書き記し、まだ何も描かれていない真っ白なページを開いた。
開いたページの左上から、ボールペンで、汚していくように今日のミスを文章にして空白を塗りつぶしていく。
後でプロデューサーさんがコメントを残しやすいように、一行書いたら一行空白にして。
10: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:51:45.54 ID:uE9Ah2ja0
「プロデューサーさん。よろしくお願いします」
翌日。目の下にほんの少しの違和感を覚えながらも、事務所に向かった私はいの一番でノートをあの人に差し出した。
彼は驚いた表情をして、ノートを手に取るとペラペラとめくり始めた。
11: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:52:29.52 ID:uE9Ah2ja0
「まゆちゃん、今日は大丈夫なの?」
仕事先に移動中、マネージャーさんがバックミラー越しに話しかけてくる。
たぶん、昨日私の調子が悪かったのをまだ心配してくれているのだろう。
12: ◆Zo89VSw555MV
2016/03/26(土) 00:53:18.87 ID:uE9Ah2ja0
「まゆ!」
雑誌の写真撮影の仕事を終えると、あの人が駆け寄ってきた。
手には、今朝私が渡した大学ノート。
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