47: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:33:27.24 ID:MBJxBtU4o
□ ―― □ ―― □
まるで金魚のように、僕がぱくぱくと口を動かして二の句を告げないでいると、彼女はしばらくじっと僕を眺めて。そして今まで読んでいた本の間に栞を挟み、ゆっくりと閉じる。
48: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:33:53.42 ID:MBJxBtU4o
「……はい、それでは、二千円から」
彼女は朝と変わらず、とても小さな声でそう言って、少したどたどしい動きでキャッシャーを操作する。ぽち、ぽちとボタンをいくつか押して。そして最後に押したボタンの後、ガシャンと引き出しの開く音がした。
そこから、たどたどしくもたおやかな動きで釣銭をつまんでいくその姿が、どうにもならないほどに眩しく見えて。僕は目を閉じて、天を仰ぐ。
49: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:34:19.62 ID:MBJxBtU4o
「……お返し、六五三円になります」
『あ、ええ。どうも』
「カバーは……お付けになりますか……?」
50: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:34:46.70 ID:MBJxBtU4o
「……あの」
その棚の先、一つ曲がれば出口というところで何かが、聞こえた気がした。あり得ない。僕はそう考えつつも、歩みを止めて……ゆっくりと振り返ってしまった。
古書棚の間、そう遠くないはずのカウンターで、儚げに立っている少女の姿が見えた。その体が、ゆっくりと倒れるように折り曲がる。深々としたお辞儀。それだけをとっても、見とれるほどに綺麗で。
51: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:35:14.53 ID:MBJxBtU4o
『いえ、本が好きだったら当然のことです。それとその……ここはいいお店です、きっと、また来ます』
僕はそれだけを告げて、相手の返事を聞くことも、顔を見ることもなく踵を返して。そそくさと古書棚を曲がっては、入口へと早足で向かう。
からら、と開いた引き戸。一気に閉めそうになる手を抑えて、心の底から努めてゆっくりと閉じる。
52: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:36:06.56 ID:MBJxBtU4o
今回の更新は以上です。思ったよりも筆が乗っていたので早めの更新となりました。
次回も一週以内に行えればと思います。
ありがとうございました。
53:名無しNIPPER[sage]
2016/04/13(水) 03:38:09.97 ID:h0+yw3ftO
諦めてたSSが復活とは...
一作目からのファンだが本当に嬉しいわ...完走応援してる
54: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:58:19.36 ID:yniCRVjXo
□ ―― □ ―― □
『……ううん』
55: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:58:46.13 ID:yniCRVjXo
ポケットからスマートフォンを取り出せば、もう十時一分前。編集長から
「あんまり気張るんじゃないぞ、楽に行け、楽に。それと気を使わせて悪い、迷惑をかけたらしいな」
なんてメールが届いていたが、そんな内容なんてすっかり忘れている。そもそも後ろ半分の意味は読んだ時も良くわからなかったし今も分かっていない。
56: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:59:13.64 ID:yniCRVjXo
「やあ、来てくれたようだね、Pくん? 時間ぴったりとは、関心関心」
『ぅおあっ』
そんな風に、エントランスホールをじっくりと観察していた僕は、背後からいきなり声を掛けられ、一瞬飛び上がる。飛び上がった拍子にずれた眼鏡を指で直しながら、振り返る。
57: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:59:43.31 ID:yniCRVjXo
にもかかわらず、社長はそれをまるで宝物でもしまうかのように名刺入れへと仕舞いこんだ。思わず、こちらが唖然とするほどに、だ。
だが、仕舞いこんだ後は一転、けろっとした表情で僕に一歩近づけば、
「で、だ。Pくんにしてほしい仕事なのだがね」
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