49: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:34:19.62 ID:MBJxBtU4o
「……お返し、六五三円になります」
『あ、ええ。どうも』
「カバーは……お付けになりますか……?」
50: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:34:46.70 ID:MBJxBtU4o
「……あの」
その棚の先、一つ曲がれば出口というところで何かが、聞こえた気がした。あり得ない。僕はそう考えつつも、歩みを止めて……ゆっくりと振り返ってしまった。
古書棚の間、そう遠くないはずのカウンターで、儚げに立っている少女の姿が見えた。その体が、ゆっくりと倒れるように折り曲がる。深々としたお辞儀。それだけをとっても、見とれるほどに綺麗で。
51: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:35:14.53 ID:MBJxBtU4o
『いえ、本が好きだったら当然のことです。それとその……ここはいいお店です、きっと、また来ます』
僕はそれだけを告げて、相手の返事を聞くことも、顔を見ることもなく踵を返して。そそくさと古書棚を曲がっては、入口へと早足で向かう。
からら、と開いた引き戸。一気に閉めそうになる手を抑えて、心の底から努めてゆっくりと閉じる。
52: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:36:06.56 ID:MBJxBtU4o
今回の更新は以上です。思ったよりも筆が乗っていたので早めの更新となりました。
次回も一週以内に行えればと思います。
ありがとうございました。
53:名無しNIPPER[sage]
2016/04/13(水) 03:38:09.97 ID:h0+yw3ftO
諦めてたSSが復活とは...
一作目からのファンだが本当に嬉しいわ...完走応援してる
54: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:58:19.36 ID:yniCRVjXo
□ ―― □ ―― □
『……ううん』
55: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:58:46.13 ID:yniCRVjXo
ポケットからスマートフォンを取り出せば、もう十時一分前。編集長から
「あんまり気張るんじゃないぞ、楽に行け、楽に。それと気を使わせて悪い、迷惑をかけたらしいな」
なんてメールが届いていたが、そんな内容なんてすっかり忘れている。そもそも後ろ半分の意味は読んだ時も良くわからなかったし今も分かっていない。
56: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:59:13.64 ID:yniCRVjXo
「やあ、来てくれたようだね、Pくん? 時間ぴったりとは、関心関心」
『ぅおあっ』
そんな風に、エントランスホールをじっくりと観察していた僕は、背後からいきなり声を掛けられ、一瞬飛び上がる。飛び上がった拍子にずれた眼鏡を指で直しながら、振り返る。
57: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 03:59:43.31 ID:yniCRVjXo
にもかかわらず、社長はそれをまるで宝物でもしまうかのように名刺入れへと仕舞いこんだ。思わず、こちらが唖然とするほどに、だ。
だが、仕舞いこんだ後は一転、けろっとした表情で僕に一歩近づけば、
「で、だ。Pくんにしてほしい仕事なのだがね」
58: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 04:00:14.67 ID:yniCRVjXo
「なかなかの設備だろう。私は設備投資と運用には自信があってね。まあ、一番得意なものは全く別のものだが」
一つ、二つとエスカレーターを上っていく途中で、社長はそんなことを話してくれた。確かに、一つ一つの設備がきちんと洗練されている。
ちら、と見た案内板では、芸能プロダクションとしても、会社としても、必要であろうものは何もかもがそろっているようにも見えて。一体何者なのだろうか、という疑問が沸き立つ。
59: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/18(月) 04:00:44.06 ID:yniCRVjXo
(どうやら、お金がかかっている場所らしい。ハイテクもハイテクだなあ)
まあ、機密情報が入る予定の場所だから当然といえば当然なのだろうけれど。僕はまるで他人事のように思って、それから部屋の中を見た。
……そこには、サーバーのタワーもなく、かといって数多のコンピュータがあるわけでもない。
165Res/170.71 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。