10:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:49:24.48 ID:skFt6CMPo
「でもなんで急に?」
わたしは聞いてみた。
ムギちゃんが言った。
「お父様がね、この町は、きょー、いく、じょー、に悪いんだって」
ムギちゃんは冗談を言ったあと、いつでもちょっと申し訳なさそうな顔をする。だからムギちゃんのジョークでは誰も笑えたためしがないのだった。
「何でアメリカなんだ? 別荘があるの?」
「ううん、むこうに叔父さんがいるから、その家に居候させてもらうの」
homestay。
それっぽいけどほんとはぜんぜんそうじゃない発音でりっちゃんがつぶやいた。
「なにで行くの、アメリカ?」
「飛行機に決まってるだろー、ばか」
「うん、ひこーき」
「アメリカにも天使っているのか?」
「いないよ、日本だけだもん。りっちゃんニュース見てないの?」
「天使のことなんてどーでもいいしさあ、いいよなー天使のいない国って。天使がゾンビみたいにうろうろしてるのって最低」
また沈黙。
ちょっとあとで澪ちゃんが言った。
「空港には気をつけるんだぞ」
「空港に?」
「そうだ、あと一歩で逃げられるっていうところが一番危ないんだ。映画ではいつもそこで油断してやられちゃうんだよ」
澪ちゃんはとっても怖がりだけど、それゆえにホラー映画的窮地への対策をいつでも怠ってはいない。実は、ゾンビ映画や幽霊のでる映画、サスペンス映画とかをよく見ていて、研究してるのだ。
男の子がエッチなDVDにするみたいに、ベッドの下の衣装ケースにはたくさんの怖い映画が隠してあるのをわたしは知ってる。
「用心するにこしたことはないんだ。ゾンビが出たら、生きのびることができるのは必ずひとりだけなんだからな……」
澪ちゃんがそう言うと、急にまたみんな黙ってしまう。
それはまるで今なにかすっごく大事なこと言ったから、それをちゃんと頭の中にメモしておかなきゃ!っていう感じの沈黙だった。
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