過去ログ - オッサン勇者と少女魔族が世界を旅する話
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名無しNIPPER
[saga]
2016/04/18(月) 01:24:46.06 ID:ZyCwTMFeo
今までに感じたことのない、奇妙な感覚。それでいてはっきりとわかる不吉の予兆。
「へ、へへ……なにを仰っているのか」
「なにを笑っているのですか?」
その怖気の元が、女から叩き付けられている殺気であると気付くのに時間はかからなかった。
「なぜ、騙そうとしたのですか?」
女の声は平坦なものであったが、露天商は明確に死を意識した。
「ひ、ひっ……!」
ゆっくりと女の手が露天商に伸びていく。
逃げ出したい。数歩後ろに下がれば簡単に逃れられる。なのに身体が動かない。露天商の思考は死に染められていた。
「なにやってんだ、早くいくぞ」
「わっ」
ぐい、と襟元を引かれ、女は体制を崩しながら二、三歩後ずさる。
「わりィな。兄ちゃん。コイツどうにも冗談が通じなくてよ」
「へ、へ? いや、その」
露天商は、いきなり極度の緊張から解放されたせいか、何が起こっているのかわからない様子だった。
女は不満げに言葉を漏らす。
「この者は、私を欺こうとしたのですよ。罰を与えてなにが悪いのですか」
「いーから黙っとけ。こっちにきていきなり問題を起こそうとすんな」
男に諌められ、得心いかないと思いつつも女は引き下がる。
「兄ちゃん、ビビらせた詫びだ」
男が親指でピンと何かを弾いた。
緩やかな放物線を描いて、露天商の下に飛んでいく。
あわてて両手で受け取ったものは一枚の金貨であった。
「え、え!?」
露天商は突然手元に現れた大金に再度混乱に陥る。
理由を質そうと顔を上げた先に、男女の姿はもう人ごみに紛れて見えなくなっていた。
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