過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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4:名無しNIPPER
2016/05/03(火) 22:13:55.84 ID:G1lrEIoLo
「……アイドル、楽しいか?」

 腕をさする手を止め、控えめな調子でボクにそう問うてきた。
 楽しい。感情を四つに大別するなら、悲しくはないし、怒りもしていない。ならそれは楽しい、もしくは喜び?


「楽しめているつもりだよ。ここはボクを飽きさせない。もちろんキミもね」

「そりゃよかった。想像と違って嫌になったのか少し経って辞める人も多くてな」

「掴んだ夢のあまりの熱さに、その身を焦がしてしまったのさ」

「楽しいばかりじゃないからなあ。でも飛鳥にはぜひ長居してもらいたいよ」

 いなくなってしまった人との思い出がそうさせたのか、彼は遠く空の彼方を見つめていた。
 ボクもそれに倣い、意味もなく遠い空を眺める。静寂な空気に肌寒さが際立ち始めて、しかしそれが心地よく感じた。
 このまま浸っていてもよかったけど、彼の方は寒さが苦手なのかあっさりとその静寂を破った。

「うーさむっ。そういやあの時付けてたの、それだよな。黄色」

「あぁ、これかい?」

 エクステンション――エクステのことを言っているのだろう。彼と出会った日にも付けていた代物だ。その時の気分でカラーを選ぶことにしている。
 エクステは付けるのに時間が掛かるけど、その分付けた後にはそれまでと違う自分が待っているんだ。そうだな、目の良いヤツは伊達眼鏡を掛けたことはあるかい。フレーム越しに映る世界は別物に見えてくるだろう?
 ボク、二宮飛鳥という少女が「二宮飛鳥」らしくあるためにエクステは必要なパーツといっていい。これとともに世界に抵抗していたからこそ、今ボクは此処にいられるのだから。
 たとえ本質は何も変わっていなくても、ね。

「相変わらず目立つよなぁ。人混みとかで探しやすそうだ」

「そうやってあの日もボクを探し当てたのかな?」

「かもな。話してみたらもっと興味が湧いたし、声を掛けて正解だった。期待してるよ」

 ボクの方こそ、誰かに、ましてやオトナに、興味を持つようになるなんて思ってもみなかった。
 ボクのセカイに踏み込んできた彼を見ていると、期待せずにはいられない。
 新たな世界を求めて鼓動が高鳴っているくらいだ。

「俺何しにきたんだっけ……あ、そうだ。仕事の件だけど中に入りながら話すよ。もういい時間だろ?」

 携帯電話を確認してみる。たしかに頃合いだ。

「そうするとしよう。往こうか、プロデューサー?」

 肩を並べて歩き出す。つまらない存在だと忌避してきたオトナであるはずの彼と、同じ目的を持って前に進んでいる。それだけでもボクからすれば充分に非日常だ。
 独りじゃない。
 ボクは今、此処にいる。キミがくれた世界で。



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