過去ログ - 伊織「あいつと喧嘩した」
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1:名無しNIPPER
2016/05/05(木) 00:11:39.03 ID:1EMEuCfU0
喧嘩したのは初めてではないが、ここまで長引くのはたぶん付き合いだしてから今日が初めて。

今朝からずっと口を聞いてない。

お互い目があっても、ぷいと向こうをむいてしまう。

日曜日のダイニング。

昨夜からの雪が部屋の外の世界を白く染めていて、肌寒さを感じる空気を押しのけるように窓から差し込む光が、暖かそうな色を壁に映している。

やかんから立ち登る煙。

紅茶の匂い。

白い皿の上のクッキー。

ストーブのたてる、かすかな音。

何とも心温まる光景。

だってのに、冷たいこの空気が部屋の中に漂っている。

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2:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:12:32.20 ID:1EMEuCfU0
あいつが、新聞を音をたてて読み始める。

ぱさぱさという音が、普段は特に何も感じないのに、今日はやけに耳についた。

「新聞の音、うるさいわよ」
以下略



3:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:13:05.47 ID:1EMEuCfU0
「別にいいじゃん」と言う。

言わなくても良いことを言ってしまったことに後悔したけれども、今更後に引くことも出来ず、泥沼にはまって行く私を、心の中のもう一人の私が「バカね」と笑っているのを感じながら、

「気に触るのよ」
以下略



4:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:14:08.24 ID:1EMEuCfU0
しかし、 あいつはそんな言葉には全くとりあうこと無く黙ったままで、しかし、ばさばさと、もっと大きな音をたてて新聞をめくっていく。

大人げないわね。

本当に、こういうところは普段と違って子供っぽい。
以下略



5:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:14:52.02 ID:1EMEuCfU0
付き合いだしてから今に至るまで、私たちは喧嘩だらけだった。 けれどもそれは長引くことは無かった。

あいつがいっつも私の言葉を大切にしてくれたから。

多分、そう。
以下略



6:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:17:26.41 ID:1EMEuCfU0
今朝かかって来た、一本の電話。

私の曲、「DIAMOND」のイントロが鳴った。

あいつの着信音だ。
以下略



7:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:18:12.64 ID:1EMEuCfU0
「鳴ってるわよ」

ソファーでゆっくりと食後のお茶を飲んでいたあいつは、まだ眠りから充分覚めきっていないような、ぼうっとした表情で私を見た。

「電話、鳴ってるわよ」
以下略



8:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:19:03.45 ID:1EMEuCfU0
「どうしたの? こんないきなり電話してきて?」

ふにゃふにゃとしまりのない顔になっていく。
そういう性格だとは知ってるけれども、あんな顔を見せられると……。

以下略



9:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:19:52.25 ID:1EMEuCfU0
ひょっとして、電話の相手が見てるあいつは私の見ているあいつとは違うのかもしれない。

そうかもしれない、そう思った。

そして寂しさが湧いて来た。
以下略



10:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:20:43.93 ID:1EMEuCfU0
これは、嫉妬なのかしらね?

この感情はこれまでにも何度か感じたことがあった。

アイドル時代なんか毎日感じてた。
以下略



11:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:21:21.39 ID:1EMEuCfU0
やがて、「うん、うん。それじゃあ」というしまりのない言葉と共はあいつは受話器を戻した。

「女の人から電話なのね」

私は、そう言った。
以下略



12:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:22:16.34 ID:1EMEuCfU0
慌てて、顔の前で手をふりながら、あいつはそう言った。

「本当かしらね。そのわりには随分嬉しそうに話してたけれど……」

「嬉しそうって、そりゃそうだろ。久しぶりに同級生の声を聞いてさ、嬉しくないはずないだろ」」
以下略



13:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:22:54.60 ID:1EMEuCfU0
本当は、これは私の勘違いだなと、私は分かりはじめてていた。

基本的にあいつは嘘がつけない。

あいつは嘘をついたり、隠し事をしている時はいつも視線をそらすから、まず簡単に分かってしまう。
以下略



14:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:24:10.15 ID:1EMEuCfU0
それでも、なんとなく許せないのは、あいつが私の気持ちを全く分かってくれへんこと。

いきなりの女性からの電話。

嫉妬したり、疑ったりするのはごく自然なことじゃない。
以下略



15:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:25:14.34 ID:1EMEuCfU0
「男の人って、信じられないものね」

私は笑いだしそうになるところを見られないようにあいつとは反対側を向くと、わざと肩を落としてそう言った。

「男の人って……、じゃあ、俺のことも信じらんないってことか?」
以下略



16:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:26:12.26 ID:1EMEuCfU0
言うに事欠いて、あいつはとんでもない事を言い始めた。

「そう言えば、この間だってかなり帰りが遅かったよな」

「あれは仕事が長引いて……」
以下略



17:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:26:46.77 ID:1EMEuCfU0
怒った。

私のことが信じられないなんて、それだけは許せない。

「私はあんたみたいな浮気者じゃないわよ」
以下略



18:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:27:13.71 ID:1EMEuCfU0
思い返してみて、 私も、というか私がきっといけなかったと思う。

でも、気がついてくれたっていいのに。言葉の裏側の想いに。

そう思うのは、私の甘えなのかしらね。


19:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:28:04.29 ID:1EMEuCfU0
いいかげん、息のつまるような空気に耐えかねて、遂に私はこの部屋から退却することに決めた。

私は壁ぎわに寄って、ワードローブからコートを取り出した。

「どこ行くの」
以下略



20:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:29:02.68 ID:1EMEuCfU0
私は、コートとお揃いのマフラーを手に取り、それを首にまわしながら、

「あんたこそ、あの人の所でも、行って来たら」

と言った。
以下略



21:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:30:01.29 ID:1EMEuCfU0
「どうして分かってくれないんだよ」

必死の表情で、あいつは言う。
許してしまいそうに心が揺れるけれど、ここは我慢。

以下略



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