39:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:50:58.43 ID:QQKHlK4R0
そもそもアイドルなのに恋をしようというのが馬鹿げていたのかもしれない。
まだ確固たる地位も確立していない私じゃ、ちょっとしたスキャンダルであっという間に引退だ。
それでもそんな現実から目を逸らし、甘い幻想を追いかけたのは紛れもない事実である。
40:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:51:29.52 ID:QQKHlK4R0
誰かが私を呼んでいる。誰だろう。
私はゆっくりと声の主へと視線を移す。
41:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:51:58.52 ID:QQKHlK4R0
「えぇ、ごめんなさい、一瞬お名前が出てこなくて…ご無沙汰してます」
私はいつも通りに平静を装う。これまで通り、平常に。
42:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:52:28.35 ID:QQKHlK4R0
43:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:53:15.19 ID:QQKHlK4R0
薄暗い部屋の向こう、浴室の方から鼻歌交じりの水音が聞こえてくる。
その浴室からは先日歌番組で聴いた、薄っぺらいラブバラードがご機嫌な調子で漏れ聞こえていた。
私はそれを遠ざけるために布団を被ると、下腹部の異物感に向かって舌打ちをする。
44:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:53:41.60 ID:QQKHlK4R0
「ふぃー、アレ?奏ちゃん寝てる?」
布団の中の暗闇で考えごとをする私に誰かが話しかける。
45:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:54:15.31 ID:QQKHlK4R0
浴室に入ると目の前には浴槽、右手にシャワーがあり左手の壁が擦りガラスになっていた。
ラブホテルというものはどうしてこんなにも悪趣味に出来ているのか、という苛立ちと共にため息が漏れる。
私は浴槽にお湯を張りつつシャワーのコックを捻り、ガラスから離れるようにして身体を洗い始めた。
46:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:54:50.51 ID:QQKHlK4R0
雨、キス、雨、男、キス、ベッド、シャワー
まるで映画みたいだ。それもたぶんB級の、ありきたりでありふれたつまらない部類の。
47:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:55:20.34 ID:QQKHlK4R0
髪は濡れて顔に張り付き、その先端から雫を垂らしていたが、目尻の辺りから別の雫が頬を伝って流れ落ちている。
泣いてる?なんで?どうして?彼を忘れてさっきまで笑っていたのに、彼が好きな、彼に振り向いてもらえる大人の女の仲間入りしたのに。
48:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:56:42.93 ID:QQKHlK4R0
自分が泣いている事を自覚した途端、堰を切ったように涙と溢れてくる。
辛い、悲しい、悔しい
心臓から感情が搾り出される。
49:墓堀人[saga]
2016/05/23(月) 11:57:19.12 ID:QQKHlK4R0
あの日から1ヶ月程が過ぎ、私はいつもの日常の中にいる。
やっぱり私自身は何も変わらず、日々やるべき事を淡々とこなしていた。
97Res/55.90 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。