過去ログ - 開かない扉の前で
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59:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 01:07:34.56 ID:btuqrQDio

 わたしは、声の方に向かってきたことを、徐々に後悔しつつあった。

 その声は、どこか変だった。

 だからと言って、戻ろうと振り返ったところで、鏡ばかりで道が分からない。
 それに、実際に戻ろうとするのも不安だった。

 もしまた通ってきた道が見つけられなかったら……? それを確認するのが、怖かった。

 近付けば近付くほど、声のひびきがはっきりと聞こえてくる。
 陶酔するような、うたうような、女性の声だった。

 ――"How would you like to live in Looking-glass House, Kitty?
  I wonder if they'd give you milk in there?
  Perhaps Looking-glass milk isn't good to drink――"

 日本語ではない。演劇の台詞を読み上げるような調子。
 わたしはなんとか、それを聞き取った。

 ――"Oh, Kitty!
  how nice it would be if we could only get through into Looking-glass House!
  I'm sure it's got, oh! such beautiful things in it!"

 握った手のひらに、ぎゅっと力を込める。

 不意に、声が止む。
 
 小声で、ケイくんのことを呼んだ。
 彼は何も言わずに、通路の先を見ていた。

 彼の視線の先には、鏡の迷路の出口があった。




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