60:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 01:11:38.97 ID:btuqrQDio
それなのにわたしは、迷路から出たのではなく、いま迷路に入ったかのような錯覚を覚えた。
鏡の通路の向こうは、そっけない壁。そちらもまた、青白い照明で薄暗く照らされている。
その果てには、大きな扉があった。
洋風の、大きな扉だ。両開きで、上部は丸みを帯びている。
物語にでも出てきそうな、上品な扉だった。
その前に、こちらに背を向けて、ひとりの女の子が立っていた。
薄暗くてよく見えないけれど、後ろ姿だけだと同い年くらいに見える。
声を掛けるのを、なぜかためらう。
そうしているうちに、彼女が扉に向けて腕を伸ばすのが見えた。
彼女はそのとき、小さな声で何かを言った。
「待っててね」、と、わたしには、そう言ったように聞こえた。
ドアノブを捻って、彼女は扉を開ける。
わたしは思わず息を呑んだ。
その扉の先は、鏡になっていた。
にもかかわらず、彼女は足を一歩踏み出して、
当たり前みたいに、その中へと吸い込まれていく。
その間際、わたしは鏡の中の彼女の片目が、わたしの姿をとらえたような気がした。
もう片方の目は、眼帯に覆われていた。
そして彼女の背中が消えてしまうと、わたしとケイくんの前には、大きな扉の奥の鏡と、そこに映る自分の姿だけが残されていた。
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