過去ログ - 開かない扉の前で
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810:名無しNIPPER[saga]
2017/10/24(火) 00:50:34.86 ID:IXxsBwaSo

 あたりを見回してみたけれど、彼の姿はなかった。

「ケイくん」と、もう一度名前を呼んでみる。
 あたりは物音ひとつない静寂に包まれていて、発したはずのわたしの声でさえどこかに掻き消えてしまったみたいに思えた。

 景色は真っ白だ。

 わたしは真っ白な通路に立っている。
 床も、壁も、天井も、光でできたように真っ白だ。

 境目と境目が曖昧に思えるほど、真っ白だ。

 通路の壁には、さまざまな意匠の施された、さまざまな扉が、等間隔に並んでいる。

 回廊の果ては、見えない。どこまで続いているのかも、さだかではない。

 わたしは手近な扉のノブを掴んで見る。ノブはピクリとも動かない。

 ひとつひとつ試してみる。どの扉も、開かない。

 どこか、見覚えのある扉が多かった。学校の教室の引き戸のようなもの、わたしの家の玄関のものによく似た扉、
 まひるの部屋の扉、さっき見た、エレベーターの扉、どこかの喫茶店のような、ガラスのはめ込まれた扉(磨りガラスのように向こう側の景色は覗けない)。

 どれもこれもが開かない。

 やがて、通路の果てまでたどり着く。いくつの扉を試したのかさえ分からない。
 たしかなのは、開く扉はひとつもなかったということだけだ。

 通路の突き当りは、左右に分かれていた。見れば、両方とも、さっきまで歩いてきたような通路がずっと続いている。

「ケイくん」

 呼んでみても、返事はない。




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