873:名無しNIPPER[saga]
2017/11/11(土) 00:21:09.16 ID:Ch5AfJxSo
「遼一について、ほんのすこしだけ、わかったようなことを言ってもいい?」
「……どうぞ」
「遼一はたぶん、子供の頃、特に勉強しなくてもテストで良い点がとれたし、何もしなくても足が早かったでしょう」
「……どうだろうな。よく覚えてない」
「きっと、そうだと思う。だからなの。だから、遼一は自分が嫌いなの」
決めつけたような言葉。それは、でも、もう、耳慣れてしまった言葉だ。
それに、間違いだとも、あまり思わない。
「出来たっていう経験があるから、出来なくて当たり前のことでも、できるはずだと思っちゃう。でも出来ない。だからつらい。
最初から出来ない人は、ある意味で楽よ。出来ないことをできるようにするために、努力するって訓練を子供の頃からするからね。
半端に恵まれちゃった人ほど滑稽なものってないよ。――遼一って、かわいそうね」
「……わかったような、ことを、言うね」
「そう言ったもの」
僕は、べつに否定しなかった。
「気に入らないことを、許せないのね。思い通りにいくことばかりだったから、気に入らないことがあると、許せなくなるのね」
あさひは、そうやって僕の幼児性を暴いた。
「――わたしと一緒」
そう言って笑う。そして彼女は話を続ける。
「生きるはずの人を殺すことと、死ぬはずの人を生かすことと、いったいどんな差があるんだろう」
「その説によると」と僕は反駁する。
「医者と殺人者の間に違いがないように聞こえるね」
「『人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね』」
「ブラックジャック?」
「そう」
彼女はくすくす笑う。僕は……笑えない。
タルトを盗んだのは赤のジャックだ。
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