過去ログ - 開かない扉の前で
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879:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:47:33.60 ID:lNunJpruo


 彼女は不慣れな様子で栓を抜き、グラスを並べてそこに注いだ。

「よかったのか?」

「いいの」と彼女は言う。

「どうせわたしのものじゃないし」

 自分のものじゃないから、問題なんだと思うのだけれど。
 とはいえ、それをいまさら僕が気にするのは、なんだか妙な話だという気もする。

「どうぞ」と彼女は僕にグラスを差し出した。
 ほんのすこしだけ迷ったのはどうしてだろう。

 ワインなんて口にしたこともない。

 けれど僕はそれを受け取った。

 彼女は、また僕と差し向かいの位置に座りなおす。
 そしてグラスをこちらに掲げた。

 触れ合ったガラスの縁が鈴のような音を鳴らす。

 僕はほんの少し、その臙脂の液体を口に含んで飲み下した。

 味はよく分からなかった。




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