過去ログ - 開かない扉の前で
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886:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:52:06.74 ID:lNunJpruo

 認めよう。

 僕がこんな有様になったのは、おそらく、祖父の姿のせいじゃない。
 そこに起因する(と僕が思っていた)僕の憂鬱さえも、本当はそうではない。

 おそらくは、そういうものだ。

 どれだけ皮を剥いで肉を抉って見せたところで、自分では見えない、自分では辿り着けない、そういう場所に真実が存在する。
 僕の目では、僕がどんな人間か、どうしてこんな有様になってしまったのか、確かめられない。

 僕にとっての真実は、つまりこういうことだ。

 僕自身の憂鬱の原因を家庭環境に押しこめ、
 その憂鬱を愛奈を利用することで軽症で済ませようとして、
 それによって自分の正当性を担保し、その正しさで誰かを審問し、
 そして傷つけることで裁いたつもりになった。
 
 審問の話法。

 誰かを裁くとき、裁く者の善悪は常に留保される。

 そして僕は人を傷つけ、
 僕の傍には誰もおらず、
 僕は誰にも必要とされず、
 僕の代わりは山ほどいる。

 愛奈にとって、あの彼がその役をなすように。
 生見小夜にもきっと、ふさわしい誰かがいるだろう。

 もともと僕が演じる役は用意されていない。

 僕はもう、誰かの劣化品ですらない。

 怪物の卵。
 いや、怪物そのものだ。

 認められたいだけの、許されたいだけの、受け入れられたいだけの、求めるだけの、
 与えることも認めることも許すことも受け入れることも愛することもできないままの、
 怪物だ。




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