過去ログ - 開かない扉の前で
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968:名無しNIPPER[saga]
2017/12/06(水) 01:38:35.40 ID:IzyndCNto

 話を終えた僕の膝に、彼女は静かに手を置いた。 
 どうしてそんなことになるのか分からなかった。

「ごめんね」と、それでも小夜はやっぱり謝るのだ。

「どうして、謝るの?」

「気付けなかった」

 まるで、自分に責任の一端があるかのような顔をする。
 彼女は――僕の一部を引き受けているみたいな顔を、する。

「どうして、怒らないの」

「……」

「どうして、責めないの」

「……」

「僕は、きっともう……」

「ね、遼ちゃん。昔、遼ちゃんが話してくれたお話、覚えてる?」

「……話?」

「うん。神さまの命令に逆らって、大きな魚に食べられた預言者のお話」

 ヨナ書。怪魚に呑まれた男の話。それをいつか、小夜に話したことがあっただろうか。

「あのお話の終わりを覚えてる? どうして、悪いことばかりをする街を、神さまが裁かなかったのか、って」

「……」

「"あなたは労せず、育てず、一夜に生じて、一夜に滅びたこのとうごまをさえ、惜しんでいる。
 ましてわたしは十二万あまりの、右左をわきまえない人々と、あまたの家畜とのいるこの大きな町ニネベを、惜しまないでいられようか"」

「……」

「ねえ、遼ちゃん。遼ちゃんがしたことが、たとえ許されないことだったとしても、だから嫌いになったりなんて、できないよ。
 遼ちゃんもきっとそうでしょう? 愛奈ちゃんが誰かを傷つけたって、きっとあの子と一緒にいるでしょう?
 正しさなんて……きっと、無視できないにしても、いちばん大切なものじゃないんだよ」




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