970:名無しNIPPER[saga]
2017/12/06(水) 01:40:15.11 ID:IzyndCNto
僕は、うつむいたまま、小夜の言葉を噛み締めながら、同時に背後にある扉のことを考えた。
屋上へ出る扉。決して開かない扉。僕はその先の景色を知ることができない。
そこにあるもの、ないもの、決して知ることができない。
たとえばその先にはざくろやすみれがいて、あるいは愛奈やあの男の子がいるのかもしれない。
僕はおそらく、不釣り合いに恵まれている。
同じことをした誰かより、おそろしいくらいに恵まれている。
それを、受け取ってもいいのだろうか。
僕はそれにふさわしいだけのことをしてきたのだろうか。
“あなたの欲望のなかに、"あなた"はいない。"誰か"の欲望のなかにしか、"あなた"はいない。"あなた"の欲望の中にも、"誰か"はいない。それって、悲しいことだよね”
僕は――。
「小夜」と、その音が、自分の口から出るのを、久し振りに聴いた気がする。
「一緒に居て欲しい」
「……うん」
「もう、ひとりじゃ無理なんだ」
「……うん」
「わけが、わからなくなって、もう、どうしようもない。だから……」
「――愛奈ちゃんを、守ろうとしてたんだよね」
「……違う、僕は」
「違わないよ。……大丈夫だよ、遼ちゃん」
「……」
「遼ちゃんが愛奈ちゃんを守るなら、わたしが遼ちゃんを守るから」
彼女の指先が、僕の頬にかすかに触れた。自分の手のひらで抑えているせいで、その姿が全然見えなかった。
触れられるまで気付けなかった。
「やっと、話してくれたね」
僕の手を、彼女は僕の目から引き剥がす。
泣き顔を見られるのも、相手が小夜なら、仕方ないことだと自然に思えた。
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