過去ログ - 開かない扉の前で
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971:名無しNIPPER[saga]
2017/12/06(水) 01:40:58.47 ID:IzyndCNto




 僕が戻ってきて数日が経った頃、母さんがひそかに教えてくれた。

 僕がいない、その間に、姉さんがこの家を訪れたという。

 ただでさえ僕がいなくなって気を揉んでいた――であろう――母さんに、姉さんが言ったことは、母さんの感情を烈しく揺さぶった。

 戸籍を移したい、と姉は言ったのだ。

 どういうこと、と母は訊ねた。

 いいかげんはっきりさせたほうが、母さんも楽でしょう、と姉は言う。

 わたしが楽かどうかの問題じゃないわよね、と母さんが言った。

 そこでわたしの責任にしようとしないで。どうしてそんなことを言い出したの?

 姉は答えなかった。

 結局その日はそれ以上話をしなかったという。

 突き詰めて言えば、それは金の話だった。

 専業主婦として穂海を育てている姉は、夫の収入を頼りにして生活している。
 夫の方が、一緒に暮らしているわけでもない他の男の子供に金を出すのを渋っているのだろうと母は推測していた。

 それがアタリだろうと僕も思った。

 学校からの集金が遅れるようになってからしばらく経つ。
 ついには、口座に金が入っていないから給食費の引き落としができないと通知まで来ていた。

 両親に、娘の食費や衣料品代を出したという話もまったく聞かない。

 そして、弟である僕が行方不明になっていたときでさえ、両親にそんな話をしたわけだ。
 ここまで来ると、なんだかよく分からない。

 姉のことを悪い人間だと思ったことは一度だってない。
 根っからの悪人だと思ったことなんて、一度だってない。
 
 一度だって、ない。

 それでも、もう、そういう問題ではないのだ。

 正しいとか、悪いとか、そういうことではなく、僕たちは、それでもこの日々を生き延びていくしかない。
 この日常を、やり過ごしていくしかない。





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