973:名無しNIPPER[saga]
2017/12/06(水) 01:42:38.21 ID:IzyndCNto
  
 ◇ 
  
  
  終わりかけの夏はいつのまにか過ぎ去って、季節は秋に変わり、けれどまだ、紅葉の見える季節にはなっていない。 
  
  やがて、景色はまた移り変わっていくだろう。 
  
  僕は通い慣れた道を小夜と一緒に歩いている。 
  
  それだけのことで、以前より、心がいくらかマシになっている。 
  けれど、問題はここからだ。 
  
  僕が見過ごしてきた欲望。 
  僕が軽んじてきた僕の言葉。 
  
  それを拾い上げてもらった。 
  僕がしてしまったもの、僕が軽んじてきたもの、僕が大切にしたいもの。 
  それと、向き合っていかなければいけない。 
  
  守ったり、守られたりしながら。このからっぽの僕自身を、誰かにふさわしいように、少しでもマシにしていきながら。 
  
  小夜と別れ、僕は自分の家の扉の前に立つ。 
  
  そのあたりまえの日常の空間に、向かっていく。 
  
  扉を開ける。 
  
 「ただいま」と僕は言う。 
  
  少しして、とたとたと、軽い足音が聴こえてくる。 
  リビングの扉から、愛奈が半身を覗かせて笑った。 
  
 「――おかえりなさい!」 
  
  
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