1:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:31:56.35 ID:Mi73gln00
デレマスSSです
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:33:12.19 ID:Mi73gln00
タバコから昇る煙は丁度俺の頭の上の辺りで薄くなっていった。火のついたタバコを肺に落とす度に自分の思考が鈍くなっていくのが分かる。ぼんやりとしている方が今はいい。鈍感になれば矛盾した痛みもなくなっていくだろうから。今出来ることは灰皿にタバコの灰で山を作ることぐらいだろうから。結局脆い灰は崩れてしまうけれど。
後、どれくらい待つのか分からないけれど、多分もうすぐ終わると思う。ただもうすぐ来ると思うのは何度目なのかもう数えなくなった。ただずっと待つということはないことが少しだけ慰めになった。彼女のことは待たせる立場であったのに待つ側になるとどうももどかしい。
こんなに待っているのに、なぜか会いたくない気がしている。結局、待っている時の今が幸せかもしれないというおかしなことを思い浮かべてるもの紫煙のせいなのかもしれない。
控え室とは名ばかりの小さな部屋だった。椅子が二脚と机が置いてあり、机の上にはいくつかの資料と安物の灰皿にタバコの吸い殻が山と積まれていた。打ちっ放しのコンクリートはわびさびには少し味が足りず、殺風景でしかなかった。かと言っても空調は効いていて掃除はしてあるようで汚い訳ではない。この部屋にいるのが不快という訳ではない。この部屋にいることが不快であるだけだった。
3:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:33:38.08 ID:Mi73gln00
何本目かのタバコに火をつけようとした時にトントンとドアを叩く音をして彼女の声が聞こえた。ドアが開き彼女が入ってくる。
「プロデューサーさん。タバコはよくないって。まゆ、前に言いましたよねぇ」
手の中にあるタバコの箱の角が潰れた。まゆはいつものように俺の目の前に座る。
「まゆ、女優の仕事は始めてだったけど頑張りましたから」
「お疲れさま」
4:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:34:08.46 ID:Mi73gln00
佐久間まゆに女優としての仕事が舞い込んできた。一時間半の短いドラマだが主役で出番も台詞も多い。プロデューサーとしてまゆのファンとして喜ばしいことだった。まゆを多くの人に知ってもらう機会であったし、まゆをトップアイドルに一歩であったから。ただその役柄の話を聞いて、まゆが受けてくれるのか不安になった。第一にそのドラマが恋愛ドラマであること。第二にまゆがそのヒロインであること。第三にまゆの役の恋の相手が新任教師であること。それらがまゆ自身にとって好ましいものか分からない。
まゆはアイドルとして活動する際に運命の人という言葉をよく使っていた。まゆ本人も運命の人ということをよく言っていたし、それはまゆの武器になるとまゆも俺もよく分かっていた。まゆの運命の人つまり担当プロデューサー。つまり俺のことである。それを公言することは良いことではない。逆に運命の人を探すことがアイドルとしての佐久間まゆであるとすればまゆに注目を集めるために十分な価値がある。そのことはまゆと十分に話し合った上でアイドル佐久間まゆの宣伝に使っていた。まゆの雰囲気、まゆの根の優しさがそのフレーズにより信憑性を持たせた。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:34:40.22 ID:Mi73gln00
今回の役は新任の教師を運命の人として扱うような描写があり、まゆの心情を考えるとこの仕事は見送った方がいいのかもしれないと考えていた。しかしまゆはこの仕事を二つ返事で引き受けてくれた。
「どんな仕事でも、プロデューサーさんが持ってきてくれたなら、まゆは頑張りますから」
「大丈夫なのか? この役はほら……」
「うふふ、大丈夫ですよぉ。まゆは、恋する女の子のことは、よく分かっていますから。それにこんなチャンスないですよね?」
まゆはにこやかに答えてくれた。あまりのことに拍子抜けしてしまったが、今考えるとそれはまゆのことを全く分かっていないことでもあった。まゆは俺の持ってきた仕事を断らない。それはまゆがトップアイドルになるということしか考えていないということだった。
6:名無しNIPPER[sage]
2016/07/07(木) 20:34:52.16 ID:0eMXvCFKO
すまん、マジで申し訳ないんだが読みづらい
適度に改行とったほうがいい
7:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:35:17.87 ID:Mi73gln00
まゆの演技はうまかった。それが偽物なのか本物なのか分からないぐらいに。俺がよく知っている佐久間まゆがそこにいた。
8:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:35:51.87 ID:Mi73gln00
事務所のカフェは職員やアイドルが食事できるようにディナーもやっている。メニューは少ないが手頃な価格で美味しいと評判だった。
「初めて食事のもここでしたね」
まゆが嬉しそうにスープを掬った。エビのビスクの湯気は食欲をそそる匂いがした。
「そうだったかな」
「そうですよぉ」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:36:26.88 ID:Mi73gln00
運ばれてきたパンをちぎってスープにつけた。
「今日のまゆの演技は良かった。本当に」
「うふふ、ありがとうございますね。まゆ、プロデューサーさんに褒めてもらえなかったの気がかりだったんですよぉ」
「でもさ……」
このことを切り出すのは気が進まなかった。俺の中のなにかが、俺とまゆの関係が壊れてしまいそうで。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:36:53.19 ID:Mi73gln00
「うふふ、お魚の料理好きです」
ナイフとフォークを持つまゆは様になっていて今度の撮影にまゆの食事をさせている所を使ってもいいと思った。アブラカレイのソテーにはニンニクがたくさん使ってあり、トーク番組に出る前に食べるのは口臭が気になることになっただろう。
「ここでの食事もいいものですね。プロデューサーさん」
「そうだな。美味しい」
結局食べ終わるまでその食事に熱中しているフリが出来た。
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