15: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:33:05.45 ID:Bte9AddR0
「志希ちゃんに限ってそんなこと、あるんですか」
虚を突かれたあまり、言い方がストレートになってしまった。
プロデューサーもわたしの驚きぶりを見て、無理もないと言わんばかりに肩をすくめてみせる。
16: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:36:29.58 ID:Bte9AddR0
「他の人は勿論、志希本人にも言わないでくださいね?」
そう言って彼は煙草の煙に乗せるようにして、話し始める。
「志希自身、誰にも見せないところで精神的に塞ぎこむ部分があったみたいで、それが仕事に影響したのかもしれないんです」
17: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:39:09.57 ID:Bte9AddR0
「……そうですね、ここはプロデューサーさんがしっかりサポートしてあげるところだと思います。ですけど」
「ですけど?」
「志希ちゃんの話を聞くだけじゃだめですよ? きちんとプロデューサーさんからも歩み寄らないと、です」
18: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:41:04.91 ID:Bte9AddR0
「俺はあいつのプロデューサーですし、責任があります」
「それに、どうせならもっといい景色を見せてやりたいんです。トップアイドルという高みから」
「……その為には、あいつと対等に向き合わないといけないってことですね」
19: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:42:47.16 ID:Bte9AddR0
「……それにしてもここ、なんなんでしょうね」
気恥ずかしくなったのか、彼が無理に話題を変えてきた。
「喫煙室なら談話室の横にもあるのに」
20: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:45:35.34 ID:Bte9AddR0
その後も気の抜けたボールのように弾まない会話を幾つか交わして、お開きになった。
わたしもプロデューサーも、明日の朝には仕事が待っているのだ。
21: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:48:58.62 ID:Bte9AddR0
「やっぱり、煙草は控えた方がいいんでしょうか」
わたしがそう尋ねると、彼は首を横に振った。
「別に構わないと思いますよ。ちひろさんは大人の方ですし」
22: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:51:14.85 ID:Bte9AddR0
プロデューサーと別れ、会社を出て駅の方向に歩く。
まだ少し凝り固まった感覚のある肩を回しながら、最近の自分の運動不足を嘆いた。
たしかにデスクワークをこなすことに慣れたけど、それに伴ってこんなに身体が鈍ってしまうとは。
23: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:53:58.75 ID:Bte9AddR0
柔軟性も、筋力も、体力も、すべてが落ちている。
予期していたことだけど、それでもやはり心にくるものがある。
日々の業務に差し障りはないにしても、ただ個人的に自分が衰えていることを自認するのが嫌だった。
24: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:56:05.91 ID:Bte9AddR0
誰かに幸せを与えられる存在に、誰かの心の片隅にひっそりと佇んでいられる存在になりたかった。
自惚れることが許されるなら、過去のある瞬間では、なれていたように思う。
25: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:59:37.03 ID:Bte9AddR0
あれから何日も経つのに、未だにプロデューサーにライターを返すことができないでいる。
返さないつもりではないし、むしろ早いうちに返さなければとも思うのだけど、どうしてだかそれは躊躇われた。
気のせいかもしれないけどそれには、未練のような、浅はかな感情が邪魔しているような感覚がある。
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