1: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:03:48.38 ID:FC6wSZy00
"人の目というのは針のようなものだ――"
森久保乃々は、常々そう考えていた。
"誰かに見られている"
そう思うだけで乃々の心は締め付けられ、その心臓は駆け足で音を鳴らす。
なにも何万もの人に見られているわけではない。
そこにいるのがたとえ1人だとしても、その目線は乃々に突き刺さり、その内側までも探られている気分になる。
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2: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:04:16.53 ID:FC6wSZy00
相手が自分のどこを見ているのか知りたい場合は、当然ながら相手の目を見ればよい。
髪か、顔か、手か、体か。
3: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:05:02.83 ID:FC6wSZy00
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「そろそろかしら……」
4: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:05:56.05 ID:FC6wSZy00
モデル上がりの彼女であるが、手元の雑誌の内容は少しも頭に入ってこない。
それもそのはず。
5: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:06:52.52 ID:FC6wSZy00
もとは仙台で読者モデルの仕事をこなしていた彼女――佐久間まゆ――が、その仕事のさ中、曰く"運命の出会い"によってこの事務所にやってきたのはおよそ半年前のこと。
芸能系の事務所とは聞いていたので、恐らくモデルの仕事を振られるのだろう。
6: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:07:25.55 ID:FC6wSZy00
最初は基本的なレッスンが多く、もともと運動があまり得意でなかったまゆには少々辛いものであったが、
しかし、運命を信じる彼女は努力を重ね、ようやく、少しずつ仕事も増えてきた。
7: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:08:19.06 ID:FC6wSZy00
だからこそ、"新しいアイドルが入る"という情報を耳にした時
「楽しみですねぇ」
8: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:08:52.14 ID:FC6wSZy00
ガチャリ
ドアの開く音がして、その時はやってきた。
9: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:10:03.88 ID:FC6wSZy00
「……あ、あの……えっと……その」
多少の間を置いて、少女が口を開く。
10: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:10:47.67 ID:FC6wSZy00
「乃々ちゃんですか、素敵な名前ですねぇ。仲良くしてくださいね」
「は、はいぃ……」
11: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:11:31.93 ID:FC6wSZy00
「はい、どうぞ、お茶です」
「あ、ありがとうございます……」
12: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:12:46.60 ID:FC6wSZy00
「乃々ちゃんはどうしてアイドルになろうと思ったんですか?」
最初の話題を何にするか、まゆは少し悩んだ末に、この質問をすることにした。
13: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:13:33.45 ID:FC6wSZy00
この時、まゆの頭の中は、困惑と驚きで満たされていた。決して怒っているなどということはない。
自分がなんとも間の抜けた返事をしてしまったことすらも記憶に残っていない。
14: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:14:28.44 ID:FC6wSZy00
「でも乃々ちゃん、とっても可愛いですから、きっとアイドルとして成功できますよ?」
もちろん本心からの言葉である。それと、もう少し自信を持ってほしいという思いも込めて。
15: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:15:29.96 ID:FC6wSZy00
そんな会話をしていると、まゆのレッスンの時間がやってきてしまった。
乃々は契約やら書類やらでプロデューサーを待たなくてはいけないらしい。
16: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:16:26.88 ID:FC6wSZy00
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遡って数分前・事務所の扉前
17: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:17:24.87 ID:FC6wSZy00
ここまで連れてきてくれた、隣に立つプロデューサーを名乗る男が言っていた。既に所属しているアイドルは1人だけだ、と。
人と関わるのが得意でない少女は、それを聞いて少し安堵した。
18: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:18:04.11 ID:FC6wSZy00
扉が開いた時、そのアイドルはファッション雑誌を読みながらソファに腰掛けていた。
こちらを一瞥して、雑誌を置き、歩いてくる。
19: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:19:02.45 ID:FC6wSZy00
「乃々ちゃんですか、素敵な名前ですねぇ。仲良くしてくださいね」
相手の顔は見れないが、ニュアンスに怒りやいらつきの感情は含まれていないようだ。少し安心した。
20: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:19:56.16 ID:FC6wSZy00
……と、思いきや、まゆは
「お茶を用意するので、少し待っていてくださいねぇ」
21: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2016/08/27(土) 00:20:36.01 ID:FC6wSZy00
お茶を飲むと心が落ち着く。
少なくともさっきまでのような緊張からは解放されていた。
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