3: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 22:47:05.87 ID:7ab73rSh0
「そこの豚」
という呼称に至る頃には、事務所に入って一ヶ月が経過していた。
あれを豚と呼ばずして何と呼ぶのだろう。
4: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 22:49:20.15 ID:7ab73rSh0
事務所の一室へ入ると「おはようございます時子様!」と豚が駆け寄ってくる。
私が「豚のくせに私より頭が高いとはどういうこと?」と返してやると、豚は笑顔でその場に跪く。
バッグから鞭(父から譲り受けた乗馬用の長鞭だ)を取り出し「褒美よ」と背中へ一振りしてやると、嬉しそうに鳴く。
日課だ。
5: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 22:51:26.36 ID:7ab73rSh0
けれど同時に、私は思う。
私は財前時子。財前に負けは許されない。
なにより、私に勝る人間がいるだなんて、それだけで不愉快よ。
アイドルも勝負事には変わりない。
6: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 22:56:56.96 ID:7ab73rSh0
私と豚の関係だけをクローズアップしてきたけれど、豚は私以外のアイドルも担当している。
とはいっても、一人だけ。椎名法子という。
しきりにドーナツを口にするよう勧めてくるドーナツ狂いなのだけど、私と豚とのやり取りを眺めて「あはは」と笑っているだけなのだから、アイドルとしての胆力は備わっているようだ。
「時子さん、絶好調だね!」なんて、私の隣に腰を下ろして声をかけてくるので、「普段通りよ」と返してやる。
7: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 22:59:49.33 ID:7ab73rSh0
「法子。それを食べ終わったら、ラジオ収録行くぞ」
豚がすっと立ち上がり、法子へ呼びかける。
どうしてこの豚は、法子相手だとまともなプロデューサー面をするのか。不思議だわ。
8: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:03:01.15 ID:7ab73rSh0
「あっ。ホントだ。……と、時子様……すみません……」
手帳に記された予定を認めたのだろう、豚は私の膝元へ駆け寄ってくる。
その様子があまりにも惨めで情けなかったので、「謝罪の言葉を口にするくらいなら行動で示しなさいよ、家畜風情が」と罵ってあげた。
9: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:03:51.56 ID:7ab73rSh0
「ともかく! あたし、もう行きますねっ! そろそろ出ないと収録に間に合わなくなっちゃいますから!」
法子はそう言うと、残ったドーナツを口の中へ放り込む。
「おう、頑張れよ」
10:運営終了は犯罪です[sage saga]
2016/10/04(火) 23:08:03.92 ID:Od+Qrumm0
イケメン須賀京太郎様に処女膜捧げる時子様マダ
11: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:08:57.94 ID:7ab73rSh0
財前家の寄贈したリムジンの中。
事務所を出て以来、沈黙は五分以上も続いていた。
……本当にこの豚、気が利かないわね。
12: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:11:47.07 ID:7ab73rSh0
「貴方、私のスケジュールを忘れるの、これで何度目? プロデューサーの自覚が足りないんじゃない?」
「そ、そんなことは――」
「法子の面倒を見るのに躍起になって、私の方が疎かになるんなら、プロデューサー失格よ。これからは法子一人に専念したら? あの子も頼み込めば、貴方をなじってくれるわよ。それで私には、事務所として別の人間をよこしなさい」
13: ◆9HQtX1uR2o[saga]
2016/10/04(火) 23:15:13.28 ID:7ab73rSh0
「でも、自分でも何でかわからないんですよ。時子様を疎かにしてるつもりなんてないですし」
「アァン?」
「い、いえ、あの、もしかすると、あれかもしれないです。法子はほら、まだ13歳ですし、頼りないところがあるじゃないですか。だから俺がちゃんとしてなきゃいけないっていうか。でも時子様は――」
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