15:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:30:15.37 ID:snFV7Fpq0
今日のお仕事はCDの販促でした。
レコード屋さんのスペースをお借りして、来てくださったお客さんと握手したり、ご購入いただいたCDにサインをしたり――
これまでの人生、立ち寄ったお店で偶然出くわすと、遠巻きに見ていたような出来事。
机を挟んだ反対側から、私はそこに参加したのです。
16:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:30:48.81 ID:snFV7Fpq0
「焦るなよ〜?」
「ええ?」
17:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:31:22.32 ID:snFV7Fpq0
「ほら、まだ始まったばっかだから。最初はこんなもんだよ。アンテナ張ってて、アイドルめっちゃ好きです好き過ぎますーみたいな、ありがたいお客さんしか来ないから。これからだよ、ゆかりちゃんのロードは」
「ロード?」
18:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:31:55.66 ID:snFV7Fpq0
「そう、です、ね」
しかしそんな思いと裏腹に、私の口は、自然と言葉を紡いでいました。
19:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:32:45.74 ID:snFV7Fpq0
あの一瞬。
先のことを考えた、あの一瞬の内に、私は何かを取りこぼしてしまった。
そんな気がしてならなかったのです。
20:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:33:19.64 ID:snFV7Fpq0
2
朝は早く起きる。
21:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:33:53.88 ID:snFV7Fpq0
放課後は事務所に足を運ぶ。
プロデューサーさんに挨拶して、スケジュールの確認や簡単な打ち合わせを済ませたら、社内の練習室でレッスンを受ける。
ダンス、歌、表現力。
22:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:34:27.65 ID:snFV7Fpq0
慣れない街に単身飛び込み、不安と驚きの荒波に揉まれながら繰り返した、歯車のように回る毎日。
晴れの日も雨の日も、同じ景色を見ているようでした。
アイドルと名付けられたこの大きな装置の中で、私という部品が置かれた場所はひどく見通しが悪かったのです。
23:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:35:01.14 ID:snFV7Fpq0
CDデビュー。
それ自体が大変な喜びでしたが、同時に、歯車のひとつだった私にもようやく外が見えるのかと、わくわくして仕方がありませんでした。
24:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:35:50.77 ID:snFV7Fpq0
ところが私は、そこから次の一歩を踏み出すことができなくなっていました。
あの夜、お仕事の帰りに失くしてしまったもの。あの痛みの正体。
目に見えず、手の届かないところから、それが私に、ささやくようにこう尋ねるのです。
25:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:36:26.63 ID:snFV7Fpq0
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「できないのです」
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