38:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:43:43.30 ID:snFV7Fpq0
私は口をつぐみました。
そんな大層な話をしたつもりもなかったのです。
けれども確かに、私の理想は、そういうことなのかもしれませんでした。
39:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:44:16.81 ID:snFV7Fpq0
「お客さんはね、それを求めてるんじゃない。ゆかりちゃんを、求めてるんだよ。こんな風に、お仕事のことを考えて、お客さんのこと考えて、悩んで悩んで、思い詰めてしまうような、そんなまぶしい人に、現れて欲しいの」
まぶしい、と私は胸の内で繰り返しました。
40:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:44:51.35 ID:snFV7Fpq0
ぱんっ! と彼は手を鳴らして、
「ゆかりちゃんは! 清らかで、誠実で、強くて、やさしくて、かわいい、女の子だから!」
41:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:45:24.64 ID:snFV7Fpq0
強い視線でした。
私を見つめる彼の瞳の、私なんかよりよっぽど透明で鮮やかな、南国の海のような輝き。
42:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:46:08.89 ID:snFV7Fpq0
風が吹き込むようでした。
私の迷いを払い去って、隠れていた宝物を、私の本当の清らかさを、私に見付けさせる風が。
43:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:46:42.44 ID:snFV7Fpq0
「私……清らか、ですか?」
「もちろん!」
44:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:47:15.74 ID:snFV7Fpq0
「かわいい……ですか?」
「世界一!」
45:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:47:49.47 ID:snFV7Fpq0
部屋の内は、みるみる私の笑い声で満たされていきました。
何と言うことのないやり取りだったのに、涙が出るほどおかしかったのです。
感情を閉じ込めていた栓が外れたようでした。
46:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:48:23.32 ID:snFV7Fpq0
目元をぬぐいながら、私は改めてプロデューサーさんに向き合いました。
私が笑い転げている間、呆れる素振りも見せずに彼は待っていてくれたのです。
「抱え込まないでね」
47:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:48:56.59 ID:snFV7Fpq0
ひとつ頷いて、彼はすっくと立ち上がりました。
しかしすぐにまた腰を下ろして、
「違う違う、思い出した、ゆかりちゃんに用があったの」
48:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:49:30.14 ID:snFV7Fpq0
一瞬、私は口ごもりました。
言葉以上に、眼差しが私に問い掛けていたのです。
――本当?
49:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:50:03.62 ID:snFV7Fpq0
しかし私は、揺るぐことなく頷くことができました。
もう一度、この掌に収め直した気持ちと、私の答えは、ぴったりと重なっていたのですから。
「……はいっ」
50:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:50:37.19 ID:snFV7Fpq0
3
チューバが歌うような品のある長い低音が私のおへその下の辺りをくすぐっていました。
51:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:51:11.14 ID:snFV7Fpq0
「いい目してるね〜」
「はい?」
52:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:52:07.67 ID:snFV7Fpq0
「お疲れさま。今日もいい仕事、できてたよ」
「本当ですか?」
53:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:53:21.54 ID:snFV7Fpq0
現場のことを思い出すと少し動揺もしますが、そよ風のようなものでした。
私が静かに頷くと、彼も頷き返して、
「いきなり一発当ててもダメだかんね。掘り返しても何も出て来ないから。それと、いきなり脱ぐのもダメ。あと全部脱ぐことになる。つまり、積み重ねてから一」
54:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:53:57.24 ID:snFV7Fpq0
「じゃあ練り直さないと」
「へ? はっ、裸にするつもりだったんですか?!」
55:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:54:38.28 ID:snFV7Fpq0
「でもさ、今の、いいよ」
「何がですか?」
56:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:55:11.85 ID:snFV7Fpq0
「はい」
「おっ」
57:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:55:45.42 ID:snFV7Fpq0
ぐっ、と加速が掛かって、車がまた走り出しました。
するとふいに、それが私を、事務所ではなく、見たこともない新しい世界に運んでいるような心地がしました。
愉快な気持ちでした。私は未来に向かっているのです。
58:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:56:40.60 ID:snFV7Fpq0
以上になります。お読みくださり、ありがとうございます。
IDが変わる前にHTML化依頼をして参ります。
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