22:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:34:27.65 ID:snFV7Fpq0
慣れない街に単身飛び込み、不安と驚きの荒波に揉まれながら繰り返した、歯車のように回る毎日。
晴れの日も雨の日も、同じ景色を見ているようでした。
アイドルと名付けられたこの大きな装置の中で、私という部品が置かれた場所はひどく見通しが悪かったのです。
23:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:35:01.14 ID:snFV7Fpq0
CDデビュー。
それ自体が大変な喜びでしたが、同時に、歯車のひとつだった私にもようやく外が見えるのかと、わくわくして仕方がありませんでした。
24:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:35:50.77 ID:snFV7Fpq0
ところが私は、そこから次の一歩を踏み出すことができなくなっていました。
あの夜、お仕事の帰りに失くしてしまったもの。あの痛みの正体。
目に見えず、手の届かないところから、それが私に、ささやくようにこう尋ねるのです。
25:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:36:26.63 ID:snFV7Fpq0
/
「できないのです」
26:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:36:59.78 ID:snFV7Fpq0
制服のままでスタジオにいることも、
片付けもせず膝に置いたフルートも、
27:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:37:33.74 ID:snFV7Fpq0
「全部って、何の」
「歌も、ダンスも……この前のレッスン、心配されてしまいました。体調が悪いのかと……でも、違うんです。ダメなんです。何かがはまらないのです」
28:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:38:07.12 ID:snFV7Fpq0
吹いた音の膨らみ。
発した声の届く先。
29:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:38:40.86 ID:snFV7Fpq0
原因は、私の心でした。
私の迷い。
30:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:39:14.24 ID:snFV7Fpq0
「ずっと、気付かない振りをしていましたが……本当は、怖かったんです。不安だったんです。毎日頑張って、必死にやって、でも自分がどこにいるのか、わからなくて……」
震えを抑えるように、私は組んだ手指に力を込めました。
31:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:39:47.98 ID:snFV7Fpq0
「輝かなくちゃいけないって、まぶしくならなきゃいけないって、いつでもそう思っていたんです。アイドルなんだから、って。でもそうしたら、怖いのに、笑ったり、つらいのに、もっと努力するなんて言ったり……そんな風に、なっていたんです。気付いたら、わからなくなっていて……」
理想だから、そうするのか。
32:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:40:21.47 ID:snFV7Fpq0
「ウソ、ついているみたいじゃないですか?」
58Res/27.89 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。