47: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/24(月) 00:09:33.32 ID:s0PoLOR90
「グイッとな、グイッとよォ」
そう言って老人が指さすプロデューサーの持つお椀の上には、
いつの間にか楓の時と同じように、黄身のように丸い月が浮かんでいた。
「さぁ、さぁ、早く」
「グイッとなァ」
「ただ、飲むだけでいーんだからさ」
プロデューサーの両手が、「待て待て、落ちつけ!」と警告する自分の意思とは反対に、
ゆっくりと顔に近づくと、彼の唇もまるで引き寄せられるように、その並々とした水面に口付ける。
――……初めはキンキンに冷やされた何の混じりけも無い水を、口に含んだようだった。
余りの冷たさに思わずプロデューサーは瞼を閉じて……再び目を開けた時には、彼は空に浮かぶ星の一つになっていた。
「え、えぇっ!?」
思わず驚きの声を上げ、自分の周りを見渡して……彼は、ますます混乱することになる。
――自分は、夢を見てるのか?
「は、ぁ……」
プロデューサーの髪を、頬を、全身を、冷たく、心地の良い風が吹き抜けていく。
自分が今、夜空の只中に浮かんでいるという事態を理解したのは、
彼が自分の足元の遥か下にポツポツと広がる、明かりの粒……街の灯りを見たからだ。
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