21: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 15:29:01.88 ID:1dmR7XxL0
高嶺の花でも、無邪気に笑うところを見ると手が届きそうに錯覚するもので、私もその前例に倣ってつい旅は辛くないかなどと質問してしまった。
ええ、けれど、やっぱり楽しいわと底抜けに明るい笑顔で答える。
ここまで垢抜けた笑顔を見ず知らずの他人に見せられるのは相当人懐こいか器量の大きな人間である。
私はこの令嬢を一気に好きになった。
するとフローラが少し昏い顔をして、でも海って広くって恐いわと云うのでなに、海なんか恐くあるもんか、この世にはよっぽど恐いものがたくさんあると返したらそれはなにと真面目に聞き返してくる。
22: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 15:30:10.12 ID:1dmR7XxL0
あんまり居辛いのでそれじゃあと挨拶をして部屋を出て行こうとすると部屋の出入り口に黒いおかっぱが仁王立ちしている。
邪魔だ、どけと云うとおかっぱは部屋に勝手に入った罰金として何かを寄越せと云って手を広げてみせる。
旅の身であるから不必要な物は何一つ持っていない。仕方がないから差し出された手を取って甲にキスをしてやった。
すると向こうはエビルアップルの如く顔を真っ赤にして何すんのよと平手を繰り出してきた。
ひ弱ではあるが私も戦闘の経験は豊富なのでひらりひらりと攻撃をかわし続けてやるとしまいにはおかっぱが泣き出してしまった。
23: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 15:31:05.66 ID:1dmR7XxL0
黒いお転婆のせいで少々時間を食ったが船長とルドマンは快く待ってくれていた。青い清楚はきっとルドマンに似たに違いない。
父に大丈夫ですと告げるとうむ、と頷いて船長、世話になったなと挨拶をする。
船長もなに、いつでもお構いなく、坊やも俺のことを覚えてくれよと朗らかに云うので素直にうなずいておいた。
港に降り立つと、間もなく歩み板が下ろされ、船が港を出発する。
退屈な船上の旅に飽き々々していた私だったが、何分一緒に旅をしたというだけでも情愛というのは湧くもので、水平の彼方へと過ぎ去る船を見ていると少しばかり惜しい気持ちになった。
24: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 15:33:19.45 ID:1dmR7XxL0
しかし陸に上がった次の瞬間には船のことなど一切興味を失ってしまった。
子供にとっては船も所詮水上を進む馬車と何ら変わりないのだ。
父は港の番をしている男と話を始め、私にそこらで遊んでいなさいと命じた。
することのない私はふらりと外へ出かけ、そこで三体の魔物と対面した。
それが冒頭へと至る経緯である。
25: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 15:35:01.29 ID:1dmR7XxL0
少し休みます
察しのつく人は分かったかもしれませんが、ガルパンの人ではありません。しかしリスペクトはしています
26:名無しNIPPER[sage]
2016/10/22(土) 15:39:07.48 ID:rUdSHnkqO
乙
27:名無しNIPPER[sage]
2016/10/22(土) 15:41:03.30 ID:3aDYQ47eO
懐かしく読んでいたがDS版か
28:名無しNIPPER[sage]
2016/10/22(土) 16:30:18.06 ID:2gL8l+Aro
これは期待
29: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 16:55:56.17 ID:1dmR7XxL0
例の港を出て北に上ると、サンタローズという田舎の村にたどり着いた。
二年前に父が幼い子供を連れて旅に出たはじまりの地らしいが、何分物心のつく頃には旅をしていたからこの村の記憶はほとんどない。
故郷であるはずのサンタローズも凡百の町村の如く私の目に映えた。
村の入り口に立つと槍を持った番兵が物々しい様子で我々を検問してきた。当初は番兵らしく横柄な態度で我々を睨めつけていたが、父の正体を見破るとさっと顔色を変えてパパスさんじゃないですか、帰ってきてらしたんですかとやに下に出る。
父はそんな態度の変わりようには毫も気にかけていないらしく、村の者に知らせよとただ豪胆である。
30: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 16:56:45.17 ID:1dmR7XxL0
父に連れられて村の中を巡ると住人の皆が皆パパスさん、おかえりなさい、パパスさん、おかえりなさいと英雄の凱旋の如く騒いでいる。
殊に教会のシスターの至っては当初は聖職者らしく荘厳な挨拶を述べていたが、最後にわーいわーいと子供みたようなはしゃぎ方をするには驚いた。
知らない人間に歓迎されるのは少々薄気味悪かったが、普段尊敬している父の待遇が良いのは非常にいい心持ちがした。
やがて村の中で一番大きな屋敷に着くと玄関口でやたらと恰幅の良い男が立っている。
男は周りの者と違い父を旦那様と呼んでいたのでどうやら召使の類らしい。
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