31: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 16:57:39.90 ID:1dmR7XxL0
屋敷に入ればやはり恰幅の良い細君らしき女が待ち受けていた。
似たもの夫婦だと思えば父がやあ、隣町のダンカンのおかみさんじゃないかと懐かしむ。
どうも別の男の妻らしい。勘違いも甚だしいが似ているのだから仕方がない。
父は父でそのおかみとサンチョとで大人の話をし始めた。この国の大人は子供を置いて話をしなければならないと言う法にでも従っているのだろうか。
必定暇になった私が玄関口で仏頂面を浮かべているとダンカンの細君が上に娘がいるから、上がって子供同士で遊んでおいでと云った。
32: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 16:58:07.28 ID:1dmR7XxL0
はたして階上に上がってみれば、金髪を左右のテエルで分けた気の強そうな女子が待ち受けていた。
顔を見合わすなり相変わらずお父さんに似ずひ弱そうだわねとご挨拶である。
ビアンカと名乗った少女が私のことを覚えてるかしらと尋ねるので首を横に振ればそうよね、あなたは小さかったものねと久しぶりに会う親族みたようなことを云いだす。
その上私の方が二歳年上なのよと前後の繋がらない自慢をしてきた。
年上なことがそんなに偉いかと反駁したら年下のくせに生意気よとやはり話が通じぬ。
33: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 16:58:34.75 ID:1dmR7XxL0
仕方がないから絵本でも読んで過ごすかと本棚に向かえばお姉さんが読んであげると先回りをされた。
どうしても自分がお姉さんであることを示したいと見える。
父の他に頼りになる人物が増えるかと期待していたが、自分で読んであげるなどと息巻いていた本を禄に解読できずに難しいわねと云って抛り投げるのには閉口した。
本に興味をなくした彼女はやっぱりお話ししましょうよと大人のようなことを云う。
口下手な自分はうん。とまあ。の二つで会話を形成していたがむしろ喋りすぎなくらいの彼女の語り口にはそれが適当だったと見え、しばらくする頃には我々は意気投合していた。
34: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 16:59:22.39 ID:1dmR7XxL0
聞けば彼女らは主人の風邪を治す薬を取りにこの村に来たらしい。
それもさっさと買って帰るはずだったのが、それを売る商人がしばらく見えないので足止めを食っているという。すこぶる暇そうで気の毒だ。
可哀想なので相手をしようかと思っていると、階下で私を呼ぶ声がする。
父に呼ばれてみれば私は少し出かけるから家でおとなしくしていなさいとの事だった。
いってらっしゃいと見送って階段に足をかけると、挙動不審にあたりを見渡す父の姿が窓から窺えた。
35: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:00:20.76 ID:1dmR7XxL0
外に出て父の行方を窺ってみると非常な速力で歩いていくから魂消た。
普段彼と歩いている身からしてみればいつも自分に歩調を合わせてくれていたのかと改めて彼の思いやりに胸を暖かくせざるを得ない。
動向を見守っていると彼は村を流れる川の上流にある洞窟へと姿を消した。
どんな用事でそこに入っていったのか知れぬが、人目を憚るようなことはして欲しくないものだ。
ともあれここまで来たからには最後まで尾けなければ示しがつかない。勇気を振り絞って洞窟へ向かうことにした。
36: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:01:08.21 ID:1dmR7XxL0
中には案の定魔物がいて、戦闘を強要された。
もっとも蝉や土竜や兎といった野生動物の変化したものの類で恐るるに足りない。
奥へと進むと洞窟ではついぞ現れなかった弱小の代名詞であるスライムが出てきた。
これまでの戦闘で場慣れした私は今が雪辱を晴らす好機と武器を振りかぶると突然スライムが人の言葉で助けを乞うた。
それもぼくわるいスライムじゃないよ。だからやめてと云いながら必死にぷるぷるしている。
37: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:02:06.48 ID:1dmR7XxL0
私は馬鹿め、スライムに善いも悪いもあるものか、スライムは人間の敵だと云えばちがうよ、ぼくわるくないよの一点張りである。
どうしても殺されたくないらしいが、敵をみすみす逃して後ろからばっさりとやられる将を幾らでも知っている。
そうしている間にもスライムはたすけてと相変わらずぷるぷるしているので仕方がないからひのきの棒で殴って気絶させておいた。運が良ければ息を吹き返すだろう。
もっとも人間の肩を持つような個体が他のスライムらと相容れられるかなぞは知ったことではない。
38: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:03:12.44 ID:1dmR7XxL0
文字通りぐんにゃりと延びたスライムを後にしてさらに奥へと進めば、妙に広い穴の一角がある。
見れば石を布団にして寝ている人間がある。
ぐうぐうと間抜けな鼾が聞こえるので思い切り頭を蹴っ飛ばしてやった。
すると石に敷かれた男がむにゃむにゃと訳の分からない寝言を言っているのでもう一度蹴り飛ばすかと身構えると急に意識を取り戻しておお、すまないが石をどけてくれないかと懇願する。
石は重かったが規模はそれほどでもないので容易にどかせた。
39: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:03:39.72 ID:1dmR7XxL0
洞窟はそこで行き止まりだったので父の行く先はついぞ知り得なかった。
私は少し肩を透かされた気分で帰った。帰りに先のわるくないスライムの元を訪れると彼の姿は形もなく、代わりにわずかなゴールドが落ちていた。
大方軽い謝礼なのだろう、ありがたく受け取っておいた。
40: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:04:35.23 ID:1dmR7XxL0
屋敷に帰ればサンチョがおかえりなさいませ、坊っちゃんと召使らしく丁寧に対応をするから気分が良かった。
少し休むと云うとどうぞ、おやすみなさいませと云って毛布を掛けてくれた。
その後は冒険の疲れからか眠気がどっと押し寄せてきてそのまま翌朝まで起きなかった。
41: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:05:41.00 ID:1dmR7XxL0
起きてみれば外が明るい。
おや、存外眠っていないなと思うとサンチョがおはようございますと挨拶をするのでどうやら次の日の朝まで眠りこけていたらしいと悟った。
階下まで降りると父とダンカンの名無しのおかみとビアンカとが待ち受けていた。
こんな朝早くから何の用かと思えば薬を売る某が戻ってきたので主人の待つ隣町に帰るのだという。
その道具屋におかしな点はなかったかと尋ねると別段普通でしたよと云うので別状はなかったようだが、石に潰されてなお意気軒昂というのもそれはそれで不気味である。
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