6: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/12/09(金) 22:45:54.90 ID:81cm0N8d0
「まったくプロデューサーさんは。……それで、そう、呼び方です。昔は橘ですと訂正しましたが、いまは気にしません。どうぞありすと呼んでください」
「いや、いいよ。それこそもういまさら変えるのもね」
「えっでも、ほら……仲悪いと思われてしまいますよ? 苗字で呼び合うより自然です」
「いまさらだよ。そう思う人はいないって」
仲睦まじいとか尻に敷かれていると、ぼくと橘さんの関係は形容されている。その上で名前で呼び合えば勘繰られそうだ。うちのプロダクションはアイドルとプロデューサーの距離が近いので、勘繰られても問題はないけれど。
「……ありすで、いいじゃないですか……」
特別拘りはないのでどちらでも構わない。ただ、だからこそ、わざわざ変える必要性も見つからなかった。
最後の右折をして、橘さんの自宅前に車を停めた。エンジンを切って車から降りる。外に出ると凍てつく風が顔に痛かった。車体左側に回り、後部座席の扉を開く。ぼくは手を差しだした。
「お姫様、到着しました」
「アリスは冒険をしましたが、姫にはなりませんでした」
不貞腐れたみたいに橘さんは顔を背けた。
「ぼくは魔法使いだよ。ガラスの靴を用意するんだ。橘さんをお姫様にするためにね」
「そこは王子様になってほしいですね。白馬に乗って迎えに来てくれればいいんです」
「王子は城で待ってるよ」
「……そうですね。私が迎えに行かないといけませんね」
不承不承といった感じに、ぼくの手を取ってくれた橘さん。その細く柔らかい手は、ぼくのよりずっと温かい。離れていくのが名残惜しく思うほどに。
「アルバムは卒業式が終わったら取りに行きます。連絡するので待っていてください」
橘さんが家の中に入るまで見届けた。扉を閉める間際小さく手を振ってくれたので、ぼくも小さく手を振り返した。
◇
17Res/17.40 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。