1:名無しNIPPER[sage saga]
2016/12/16(金) 17:47:53.12 ID:9I9fV+IC0
ごとん、と音がした。
その音は事務所の空き部屋から聞こえてきた。
その部屋では、以前から発明好きの池袋晶葉が何作目とも分からない機械の製作中で、それを知っていた椎名法子は、またなにか面白い発明品が出来たに違いないと、期待感に口元を緩ませていた。
前回はドローン技術を利用した飛行装置、その前は5分で汚れを落とす超強力洗浄洗濯機、そのまた前は人工知能を備えた小型ウサミンロボ。
いつだったか、塩胡椒を「塩」と「胡椒」に分別する機械などといったものもあった。どんな用途のために作ったのかは分からないが、発明家とは面白いと思えばどんなものでも作ってしまう生き物なのだろう。
ドアを開けてみると、中では晶葉が頭を抱えて唸っているところであった。
「おかしい……なにがどうなってこんなことに……」
部屋の中には、一メートル幅の正方形が置いてあり、その周りには仰々しくパイプや電線などが張り巡らされている。予想通り、また発明品が完成したようだが、様子を見るに、失敗したようだ。
「またなにか作ったの?」
「む、法子か。実はテレポート装置を作っていたところでな。なんでもここに転送できる画期的なマシンだ」
「テレポート装置!すっごーい!それってドーナツも持ってこれる?」
「ああ、だが少し失敗してしまってな……これを見たまえ」
晶葉の指差した正方形の表面のガラス板は、一面に真っ赤に染まっていた。
「なぁに、これ」
「これはリンゴだ」
「リンゴ?」
なるほど。よく見ると、うっすらと筋のような模様や、艶のある光沢が見て取れる。まさしく、リンゴの皮であった。
「どうもどこかの設計を誤って、転送されてきたものがこの容器一杯に拡大されて転送されてきてしまうらしい。いったいどこで間違ったのだ……」
「じゃあ、これはとっても大きなリンゴってこと?」
「そういうことになるな。どれ、ちょっと切ってみよう」
晶葉は容器の蓋を開け、容器と同じ、正方形の巨大なリンゴを取り出した。軽がると持ち上げているので、重さは変わらず、体積だけが膨張しているのだろう。
苦戦しながら包丁で切ってみると、中もしっかりとしている。試しに食べてみても、ちゃんと歯ごたえもあり、瑞々しく、甘酸っぱい味が口に広がった。まごうことなく、リンゴであった。
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