11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 12:09:00.93 ID:YiqUyrv20
「茜さんの、匂いを――嗅がせて欲しいのです」
「なるほど、匂いですね!! 分かりました! では早速――はて? 匂い、ですか?」
「はい、匂い、です」
12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 12:13:52.00 ID:YiqUyrv20
「えっと……匂い、といいますと、その……匂いのことでしょうか?」
「はい、鼻腔の嗅覚受容神経によって脳に認識される、匂いのことですが……」
「……?」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 12:17:34.96 ID:YiqUyrv20
鷺沢文香にとって一つ誤算であったのは、自分が頼みやすいことと、実際に相手がそれを引き受けてくれるかどうかは、また別の問題であるということだった。
無論、鷺沢文香としても、誰もが手放しで引き受けてくれるような願いではないことは重々承知していたが、しかし、日野茜の気持ち良さにそれを失念させられた形となった。
果たして予想だにしなかった頼まれ事に日野茜の混乱は深まり、彼女はその情報の処理に追われた。
瞳に螺旋の模様を浮かべながらも、飲み込めることだけを、少しずつ飲み込んでいく。
そして数秒後、僅かながらも情報の整理が終わったのだろう日野茜は、恐る恐る口を開いた。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 12:23:20.50 ID:YiqUyrv20
しとろもどろになりながらも、日野茜はしっかりと譲れない点を示しつつ、言葉を紡いだ。
しかしそれは、鷺沢文香にとってもまた、譲れない点であった。
「それでは、駄目なんです」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 18:25:45.68 ID:YiqUyrv20
「文香ちゃん……その、理由を聞いても、いいでしょうか……?」
「……はい。私が先程まで読んでいた本に、『爽やかな汗の匂い』という表現が出てきたのです」
「爽やかな汗の匂い、ですか……具体的にどんな匂いかは分かりませんが、でも、イメージすることはできますね」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 18:27:27.95 ID:YiqUyrv20
「でも、アイドルとなってから、自分の思っていた以上に、自分の知っている世界が狭いことに気付きました。
いえ、それだけでなく、知識として知っていることでさえ、その半分も理解できていなかったことを知りました」
「……文香ちゃん……」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 19:35:41.73 ID:YiqUyrv20
「……分かりました。文香ちゃんの熱い気持ち、しっかりとこの胸に、受け止めましたっ」
「! では……」
「えっと、すごく恥ずかしいです……けどっ。文香ちゃんのためなら私、協力します!!」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 19:36:54.58 ID:YiqUyrv20
鷺沢文香からの今一度の問い掛けに対しても、日野茜はあくまで強気に答えてみせる。
その表情は恥じらいを隠すかのようにぎこちなく、しかしそれは同時に、彼女の覚悟の大きさをも示していた。
対人経験の豊富でない鷺沢文香も、目の前の彼女が乙女としての羞恥を必死で堪えて引き受けてくれたことを感じ取り、理解した。
だからこそ、胸の内からは自然と、感謝の言葉が浮かび上がってきた。
19:名無しNIPPER
2017/01/01(日) 19:54:44.40 ID:flOZjWeVO
大晦日と新年にかけてこんなSS書くなんて……
遅れて来たサンタさんかな
20:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 21:06:21.12 ID:YiqUyrv20
「い、いえいえっ、文香ちゃんは同じアイドルの、大切な仲間ですから!! 仲間のためならこれくらい、何てことないですよ!!!」
日野茜は、笑顔でそう言い切ってみせる。
そこまで感謝される程のことではない、と。
――恥じらいの窺える、ぎこちない、強張った笑顔。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/01(日) 21:11:38.97 ID:YiqUyrv20
「……」
「……」
二人は照れの混じった笑みを投げ合い、しばしの間、見つめ合う。
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