過去ログ - 【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―5―
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983: ◆P2J2qxwRPm2A[saga]
2018/03/11(日) 19:33:53.97 ID:YQSvpWbd0
「……」

 あの日と同じでじっと静かに月を眺めている。どこか儚げに感じたシルエットもそのままに、彼女はそこにいる。それに話しかけないでもいいと、考える自分もいた。サクラ王女の悩みに手を差し伸べたところで、もしかしたら意味などないのかもしれない。そう考えれば自室に戻ってしまうのもいいだろう。

「……そうはいかないわよね。あんな顔をされちゃったら……」

 セレモニーのあの瞬間だけ見せたサクラ王女の顔。冷めたように見えた顔、あれはどこか喪失感を漂わせていた。私はあの顔を知っている。昔、あらゆる日々に怯えなくてはいけないと知った時、私もあの顔をしていたような、そんな気がするからだ。
 最初の一歩を踏み出すのは時間が掛かったけど、歩き出してしまえばもう止まることは無い。その背中を見た時、この距離はそうそう埋まらないものだと思っていたけど、気づけばもうその背中に手が届く場所にいた。

「何を見ているのかしら?」
「……月を見ていました」

 サクラ王女は短くそう答えた。前と同じように背を向けたままだ。
この前話をした時のように、私はその背中に背を合わせた。サクラ王女は驚くことは無くて、そのまま私に背中を預けてくる。少しだけ支えてくれますかと尋ねているかのようで、それには私は少し背を丸くして腰を下ろす。二人して背中合わせに膝を抱える。そのわずかな静寂は思ったよりも重く圧し掛かってきた。
 でも、それにも終わりはやってくる。私はそれを、ただただ待ち続ける。そして、その時は静かに訪れた。


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