過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
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27: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:31:06.17 ID:fiJYedV+0
両手の親指と人差し指を立てL字型をつくる。それを組み合わせ長方形の窓枠にし、
そこからそっと周囲を覗いてみた。
どこをどうその窓枠に収めてみたところで、俺にはイマジネーションの気配も趣とやらも感じることができない。
28: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:31:37.39 ID:fiJYedV+0
「千反田」俺は蔵の内側へ呼びかける。「少しは落ち着いたか」
応答は返ってこない。
29: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:32:53.92 ID:fiJYedV+0
ただ、べつにいいさと俺には思えた。得手勝手な話ではあるが、誰かが不利益を被ればいいという
願いを微かに抱いていた。千反田えるを取り巻く種々のしがらみを後生大事にする奴らも、合唱祭の成功ばかりに目を向け、
千反田えるという個人を蔑ろにした奴らどちらにも不利益が被れば良いと僅かに願っていた。
30: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:33:30.56 ID:fiJYedV+0
つまるところが八つ当たりだ。論理もへったくれもない。ぐずる子供が喚き散らし、非の全てを誰かに押し付けたいだけだ。
千反田は俺がこのような事を述べたところで絶対に同意はしないだろう。
そのような考えを俺が持っていること自体にも喜びはしないはずだ。
31: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:34:03.37 ID:fiJYedV+0
前触れもなく、観音開きの扉が開く。思いの外鳴り響く音に、俺は少しだけ驚き、後退りしてしまう。
「ごめんなさい。折木さん」
俯き加減の千反田がそう呟く。
32: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:34:34.94 ID:fiJYedV+0
そんなことないさ、とは口に出来なかった。千反田はその言葉をにべもなく否定してしまうだろう。
何を言葉にすればいいのか、どれもこれもが千反田を傷付けるだけのようで俺には分からなかった。
33: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:35:06.46 ID:fiJYedV+0
「折木さん。よければ少し歩きませんか?」
こちらの戸惑いを感じ取ったのだろうか。千反田は憂いを含んだ苦しげな笑みを無理矢理に浮かべ、
手にしていた茜色の傘を楚々とした仕草で、そっと開いた。
34: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:36:02.69 ID:fiJYedV+0
茜色の傘は、二人を雨粒から守るには小さすぎた。俺はいいからと固辞はしたけれど、
千反田が頑としてそれを許さなかった。
それでも、背丈が高い俺が傘を持つことになったから、気取られぬよう僅かに千反田側へ傘を傾ける。
35: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:36:59.41 ID:fiJYedV+0
熱せられた舗装道の余熱はとうに失われ、近くのクヌギはすっかりぬれそぼり、水を含んだその立ち姿は
どこか恨めしげにこちらを見つめているようにも感じられた。
雨の匂いばかりが辺りを彷徨っている。
36: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:37:38.05 ID:fiJYedV+0
不意に傘の重みが増した。どうしたことかと視線を向けると、
ほくそ笑む千反田が傘の柄を指先でこちら側に押し返している。
「わたしは大丈夫です。心配には及びません。遠くない距離に家があるので、
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