過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
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47: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:45:19.32 ID:fiJYedV+0
 千反田の提案で、千反田邸に足を運ぶこととなった。

小雨程度だといっても、二人ともいい塩梅にずぶずぶだ。他人の家にお邪魔することがそれほど得意じゃない俺だったが、

待ち受けているだろうバスタオルの誘惑には抗えない。それに、どうして千反田の父親が件のようなことを告げる気になったのか、
以下略



48: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:46:25.69 ID:fiJYedV+0
 頭を垂らしてはいない緑の稲が、毅然として整列している光景が目の前に広がる。

出穂にはまだ少し時間を要するそうだ。

この広大な田園の全てが千反田家の所有地なのだろうか。
以下略



49: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:47:08.01 ID:fiJYedV+0
門扉の前に立ち、改めてその内部を伺ってみると自然と溜息が漏れ出てしまった。

依然として変わらないその偉容は、古くから連綿と続くこの家系の誇りを代弁しているかのようだった。

俺や里志たちには到底理解し難い責、千反田という家の歴史が
以下略



50: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:47:46.12 ID:fiJYedV+0
 不意に、不安に襲われる。千反田はこの責任と真正面から対峙し続けてきた。

ただ、その責任から唐突に放免され途方に暮れてしまった今、千反田の父親の真意を知り得たところで、

それは本当に千反田の救いになるのだろうか。
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51: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:48:22.15 ID:fiJYedV+0
「ところで千反田」

 俺はそんな不安を振り払おうと隣を歩く千反田に声を掛ける。

「父親が、お前に『家のことは気にせず自由に生きろ』となぜその日に語ったのか、
以下略



52: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:49:11.87 ID:fiJYedV+0
「別にどんな些細なことだっていいんだぞ。

それに、普段から一緒に生活をするお前でなければ些細な変化なんて気づきようもない」

 腕を組み合わせ、下唇を噛んでもう一度記憶を手繰り始めた千反田が
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53: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:49:56.18 ID:fiJYedV+0
 時折このお嬢様は俺が期待する加減というものを、

ものの見事にあっさりと裏切ってくれる。

「どうでしょうか? うーん、あっ! では物置の整理をしていて、
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54: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:50:31.37 ID:fiJYedV+0
 ひょっとすれば、千反田が望むような答えはないのかもしれない。

父親が以前よりその思いを内に秘めていたのかどうかも定かではない。

千反田の責を解くという考えを実際に口にしたきっかけ。
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55: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:51:46.83 ID:fiJYedV+0
「える」

 玄関の戸が開き、家の中から一人の女性が姿を表していた。

千反田が俺のさしていた傘の下から飛び出し、小走りに女性の元へとかけて行く。
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56: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:52:27.73 ID:fiJYedV+0
 俺はあえて急ぐようなまねはせず二人のところへ向かった。

玄関まで延びる飛び石の上を、むしろ意識してゆっくりと歩く。


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57: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:53:41.97 ID:fiJYedV+0
「ここで待っていてね。タオルを持ってきますから」

 千反田の母がそう言い、家の奥へと姿を消した。

玄関の三和土には、俺たち二人から時折滴る雨滴により黒い跡が残っている。
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