過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
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80: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:22:37.76 ID:fiJYedV+0
色々と感じるところはあったけれど、今だからこそ
痛烈に思う千反田えるのことを素直に伝えることにした。
「千反田は高校2年生の女の子です。
81: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:23:21.33 ID:fiJYedV+0
「折木くん」千反田の母親が人差し指を立てる。
「余計なお世話かもしれないけど、ひとつ忠告があります」
声のトーンが落ち、生真面目な表情で語るその言葉に思わず聞き入る。
82: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:24:41.01 ID:fiJYedV+0
「普通っていう言葉、私はとても難しい言葉だと思うの。
なぜなら、それは発話者によって、意味合いが大きく異なってしまう。
折木くんは自分たちを普通と称した。
83: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:25:35.81 ID:fiJYedV+0
「そんなこと」
「千反田の家のこと、周りの人々からのプレッシャー、あの子にはつらいこともあったかもしれない。
でも、責任を抱えていたからこそ今のあの子がある。あの子とそれらの責任は不可分なの。
84: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:26:29.13 ID:fiJYedV+0
そんなつもりはなかった。
千反田の母親は、俺に反論があるのではないかと、俺の目を見つめじっと待ってくれている。
千反田家のこと、周囲からの期待、千反田を今苦しめていることに対して、一撃を食らわせたかった。
85: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:27:02.69 ID:fiJYedV+0
自分の浅薄ぶりがやりきれなかった。これ以上、千反田の母親の方へ視線を向けられなくなり、逃げ場所を求めて目線を彷徨わせる。
障子の雪面上を、廊下の板の目の間を彷徨するその瞳が救いを求めるように行き着いた先は、
飾り棚に置かれた二枚の絵画のところだった。千反田の母親も重苦しい空気を感じ取っていたのだろうか。
86: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:27:36.56 ID:fiJYedV+0
「どちらが好みか選べ、と言われたら折木くんならどちらを選ぶかな?」
「右、ですかね」
両方の作品を再度見比べてみても、やはり右の作品に心が惹かれる。
87: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:28:16.12 ID:fiJYedV+0
「なるほど。よければ理由も聞いていい?」
「理由ですか……はっきりとしたものはありません。左の絵の方が、
まるで実際に見て描いたのではないかと思えるほど技術的には優れているように感じました」
88: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:29:03.40 ID:fiJYedV+0
「うん。確かに左の絵の方が技術的に勝っていると私も思う。
でも、この絵はそれだけ、それだけで鑑賞する者の気持ちに訴えかけるものが不足している。
まるで工事の図面のような代物」
89: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:29:49.53 ID:fiJYedV+0
「まるで実際に見て描いたようだと言いましたが、実のところはどうだったんでしょう?」
「残念だったけど事情があって実際に渡航はできなかった。
数枚の写真を参考に構図を整えて、この絵は描き上げたの。
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