過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
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90: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:30:17.67 ID:fiJYedV+0
 学校の授業でならともかく、余暇を絵を描くことに充てたことは記憶にない。

「ありません。鑑賞すること自体嫌いではないですが」

 殊更残念そうに振る舞った後に、千反田の母親は考え事をするように右手の指を顎の下に添えた。
以下略



91: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:31:15.10 ID:fiJYedV+0
「じゃあ、読書はする方かしら?」

 俺は首肯し、小説ばかりであることを付け加える。

「それで充分。では、何か物語を書いてみたいと思ったことはないかしら? 自分の内にある物語を」
以下略



92: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:32:32.76 ID:fiJYedV+0
 絵を描くこと、物語を書くことにいったいどんな関係があるのだろうかと

疑問を抱きながらも、俺は再び首肯する。


93: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:33:10.71 ID:fiJYedV+0
「物語はね、なにも映画や小説ばかりの専売特許というわけではないの。

素晴らしい絵画にも物語は潜んでいる。物語は絵という表現形態で表されることによって、

その象徴的側面を際立たせることができる。


94: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:33:41.76 ID:fiJYedV+0
例えば、宗教画であったりがそう。そこには教義を意味するために、ある物が描かれたり、愛を表現するために特定の色が使用されたりするの。

より強い印象を与えたい物語の一端を、言葉だけでは伝えきれない物語の一片を、言葉では表現できない物語の姿を、

絵画という手段では表現することができるというわけ。


95: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:34:20.34 ID:fiJYedV+0
でも、私が一番良いと考えているところは、どの表現方法にも保証されていることではあるんだけど、

それは多様な解釈が可能であるということなの。とりわけ絵画はその傾向が強いと私には感じられる。

言葉の介在が極端に少ない表現形態であるというのが理由なんじゃないかしら。


96: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:34:51.60 ID:fiJYedV+0
一枚の絵があって折木くんはそれを幸せだと受け取るとするでしょ? でも誰かはそれを不快に思う。抱腹絶倒してしまう人だっているかもしれない。

そして別の誰かはそれに未来を見る。私に送られた作品だと受け取る人もいれば、願いがテーマだと啖呵を切る人もいないとは限らない。

答えは、どれも正解」
以下略



97: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:35:24.89 ID:fiJYedV+0
「普通はこう感じるのだというものはないわけですね」

 千反田の母親が柔らかに笑み、頷く。



98: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:35:59.40 ID:fiJYedV+0
「質問ばかりですみません。あと、いくつか聞いてもいいですか?」

「もちろん」

 俺がさらに断わりを述べ、質問を口にしようとしたその時、千反田が悠揚とその姿を表した。
以下略



99: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:36:53.01 ID:fiJYedV+0
「湯加減はどうだったかしら?」

 そう尋ねる母親の隣へ、千反田が腰を下ろす。

「ぴったりです。ありがとうございました」
以下略



100: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:38:22.52 ID:fiJYedV+0
「あの」俺は気を取り直すように咳払いを一つする。

「それで、さっきの質問なんですが、千反田さん。

千反田さんは今も絵を描き続けているんでしょうか?」
以下略



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