6:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:17:59.92 ID:NKOR2HtY0
しかし、よ。
思いつかないものは思いつかないんだし、そしてそこを妥協するのもなんか違う気がする。
なので、私の返事はいつも決まって「ごめんなさい」であった。
そうして普通の人なら折り合いをつけて生きていくところを生来からのそれで逃し続けて未だに私は独り身なのだ。
お寒い話である。
7:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:18:42.10 ID:NKOR2HtY0
「ただいまー」
「おかえりなさいなの。今日は遅かったね」
「んーちょっとね。レッスンしてるのを見てきたし」
8:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:19:10.47 ID:NKOR2HtY0
あの頃の美希を知るものならばみんな驚くことでしょうね。
だってこんなにも家庭的になるなんて、誰も予想していなかったでしょ。
お米の炊き方どころか包丁でものを切るのでさえ、おっかなびっくりだったのに。
今ではお肉は硬くならず、じゃがいもも崩れず。
どこに出しても恥ずかしくない肉じゃがを作れるような立派な女性になるだなんて。
9:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:19:52.60 ID:NKOR2HtY0
そうやってテーブルからパタパタ準備する後ろ姿を見ていると、私の視線に気づいたのだろうか。美希がこっちを振り返る。
「どーしたの?ミキのこと、じっと見て。もしかしてもしかしてミキに惚れ直しちゃった?」
「そうだ、って言ったらどうするのよ」
10:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:20:23.97 ID:NKOR2HtY0
あの頃の時を思いだすと今でも少しドキドキしてくる。
私の若さゆえの傲慢さと、信じられないくらい謙虚になった今とのギャップに。
あの頃の私は、この世の全て余すことなく自分は手に入れられると思ってたし、そう信じていた。
トップアイドルの称号だって、前にいる美希を超えて掴み取れると信じてた。
しかし今はどうなのかしら。
11:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:20:56.00 ID:NKOR2HtY0
そんなことを考えられるくらい大人になってしまったんだなーと改めて感じてしまう。
昔は飲めなかったコーヒーは、今ではあの時飲んでたオレンジジュースの代わりに飲んでいる時がある。
朝起こしてもらうのは変わらないけれども、何もかも人任せじゃなくて、自分である程度して会社に向かう。
着いたら、消したら増える書類に目を通し、とりあえず山を一つずつ減らしていくことに注力する。
間を見計らってあの子達の出てるレッスンなり番組だったり、CDを聞いたりする。
12:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:21:26.74 ID:NKOR2HtY0
「そういや聞いた?やよいの赤ちゃんの話」
「ええ、本人から直接電話でね」
「やよいに似てすっごく可愛いはずだから産まれたらすぐ観にいこうよ」
13:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:22:10.99 ID:NKOR2HtY0
食後のゆったりとした時間。雪歩から貰ったお茶をいただきながら、美希が私にこう尋ねてきた。
「伊織はどう?」
「どうって何がよ」
14:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:22:44.06 ID:NKOR2HtY0
私が自分のそれを察したのはいつだっただろうか。おそらく15歳か、そこらへんだったと思う。
周りの子が、自分の担当プロデューサーに惹かれていってる時に私だけがそうならなかったってのが理由だけども。
別に私が、自分の担当のプロデューサーを嫌いだってことじゃないのよ。
私をアイドルにしてくれた、私のかけがえのないパートナー。
尊敬こそすれど嫌う理由なんてどこにもなかった。
15:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:23:11.35 ID:NKOR2HtY0
でもね、本当に私にはその人たちと自分がキスしている姿が思いつかなかったの。
その時は別に特になんとも思わなかったのよ。「自分にふさわしい男がいないのが悪い」と恥ずかしげもなく思っていた。
ハッキリと自覚したのは19歳。
アイドルを引退して訪れた、外国で。
そこには男性同士、女性同士、もちろん男女の恋人同士が自然に手を繋ぎ、愛を語りあっていた。
16:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:23:37.70 ID:NKOR2HtY0
だからといってショックではなかった。
むしろスッキリした気分だった。
そして明確に女性が恋愛対象だと自覚したからって、私は何も変わらなかった。
765プロのみんなは素敵な人たちばかりだったけれども、それでも私にとっては良き仲間のままであったし、これからもそうだと信じていた。
でもね、たった一人だけ変わってしまったのがいるの。あいつのことだけどね?
17:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:24:03.55 ID:NKOR2HtY0
そこから美希が何を思ったのか、考えたのかは分からない。
ただ自然と美希は私の旅行に着いてきて、帰国してからも私と暮らしだした。
それが何を思ってのことかは、私には分からなかった。
でもね、美希との旅行は楽しかったわ。
アイドルにいた頃と変わってない顔だったり、変わった顔だったり、はじめて見る顔にたくさん見られて。
18:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:24:38.07 ID:NKOR2HtY0
もし聞いてしまってこの関係が終わってしまうのかと思うと、怖くてできなかった。
そして聞けないまま、こんなに経ってしまった。
検討はついている、たぶんプロデューサーのことなのだろうと。
私を見るときのあいつの目は、私を通して誰か別の人を見ている時がある。
プロデューサーと使うはずだった時間を私に使っているのだろうと。
19:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:25:08.43 ID:NKOR2HtY0
「私がどうしたいか、ね」
「そっ。伊織がどうしたいか。どうなりたいかって言いかえてもいいかも」
「あんたからそんな哲学的な言葉が聞けるとは思わなかったわ」
20:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:26:09.88 ID:NKOR2HtY0
「会社があって、仕事があって、あの子たちがいて、……そしてね、この暮らしがずっと続けばいいと思ってるわ。何も変わらなくていい。悪くなるのは嫌だけど、そんなに良くならなくてもいい」
永遠の停滞、それこそが私の望みだった。
朝起きて、美希が作ってくれた朝食を食べて、事務所に着いて、仕事して、美希が作ってくれたお弁当食べて、あの子たちのレッスンをちょっと覗いて。
21:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:26:59.93 ID:NKOR2HtY0
「美希がいても、いいの?」
「あんたがいないと、はじまらないわよ」
これが私の精一杯。
22:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 02:27:26.84 ID:NKOR2HtY0
あなたは今寂しい?
ええ寂しいわよ。
1+1の答えが2だと分かっていながらも、私は2を作れない。どこまでいっても私とあの子は1+1のままなのだから。
あなたは今幸せ?
そう聞かれたなら、私はきっとこう答えるだろう。
23:名無しNIPPER
2017/01/20(金) 02:28:05.58 ID:NKOR2HtY0
お読みいただきましてありがとうございました。
24:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 08:44:05.30 ID:w6R+o3tV0
おつおつ
(タイトル的に某SSの続きものかと思ってしまった)
25:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 15:10:58.22 ID:8xcTOoAL0
すばらしい
他に書いたのあれば教えてください
26:名無しNIPPER[sage]
2017/01/29(日) 05:30:10.79 ID:a3mehsnw0
ああああ
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