過去ログ - 魔術士オーフェン無謀編・死にたい奴から前に出ろ!
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5:1[saga]
2017/04/15(土) 02:39:47.77 ID:Ip5evVVC0

 それに対して、オーフェンはバンダナを巻いた額に手をやった。彼にとっても、頭の痛い話ではあったのだ。

「一応この前、不本意ではあったが元金の一部を返済したろ。その実績が評価されちまったらしい」

「評価って……返したって言っても、たった銅貨数枚じゃなかった?」

「俺の前任者が13人ほどいたらしいんだがな。どいつもこいつも、びた一文返さなかったんだと」

「なんで?」

「……13人中、8人は発狂、3人が植物状態、1人は今も精神病院から出てこれないんだそーだ」

 先ほどまで出向いていたサマンサの事務所で聞かされた、そんな鬱屈とした事情を呟く。

 それを聞いて、コンスタンスは顔をしかめて見せた。間を取る様にカップへ口を付けてから溜息を吐く。

「……何ていうか、納得したわ。評価されたのは返済能力じゃなくて、
 あれに付きまとわれても正気でいられる、ゴキブリか雑草の如きメンタルの方だったのね」

「……ん? あれ、オーフェンさんの言った数字だと、ひとり足りなくないですか?」

 マジクが指折り数えながら指摘してくる。オーフェンもそれに倣うと、全部足しても12人にしかならない。

「確かにそうだな。記憶違いか……?
 未知の生命体と差し向かいで話してたからな、落ち着けたもんじゃなかったし」

「そういえばあれ、どんなところに住んでるわけ? やっぱり産業廃棄物の不法投棄所とかかしら」

 コンスタンスが興味を持ったのか聞いてくる。
 オカルト好きな性格がそうさせたのかもしれないが、であれば、オーフェンの返答はつまらないものだった。

「それが意外なことに見た目は普通の雑居ビルでな。まあ、人間を誘い込むための罠という可能性も高いが……」

 脳裏に数刻前の情景がちらりとよぎる。記憶に残る通された応接室は、特に変わったこともない普通の見栄えをしていた。

 強いて言うなら、趣味の悪い、等身大の蝋人形が飾ってあったことくらいだろう。
 非常に精巧な出来栄えで、まるで本物の人間を粘液か何かで固めたようにも見える代物だった。

 魔物の棲家なのに、むしろ装飾が控え目だな、というのがオーフェンの感想だったが。

「ま、どーでもよかろ、人数の食い違いくらい」

「それもそうね。別に何か害があるわけでもないでしょうし」

「本当にいいんでしょうか……」

 納得する二人をよそに、なにやら冷や汗など垂らしながらマジクが唸っていたが、彼もすぐに気持ちを切り替えたらしい。
 肩をすくめて、残念そうに呟く。

「でもそうなると、そのお金で溜まってる宿賃を払ってもらう、ってわけにもいきませんね」

「なんか近づいてきたと思ったら、それが目的かい。安心しろよ、儲けが出たらまとめて払ってやる」

「うわ、それって完全に詐欺師の台詞じゃない。信じちゃ駄目よ、マジク君」

 茶々を入れてくるコンスタンスの台詞にふんと鼻を鳴らして返し、オーフェンは零れ落ちた金貨を一枚拾いあげた。マジクに放る。

 その金の放物線の先に何とか手を差し伸べてキャッチすると、マジクはきょとんとした表情を向けてきた。

「? くれるんですか」

「やらねえよ。そうじゃなくて、飯を頼む。コギーが食ってたのと同じ奴な」

「でも、これって人に貸す為のお金なんじゃ……」

「はっはっは、馬鹿だなぁ、マジクは」

 オーフェンは朗らかな笑みを浮かべた。他にこぼれている金貨を袋に詰め直しながら、分かりきった理屈を口にする。

「確かにこれは俺が仕事を始める為の資本だ。
 すなわち! まずは俺が満足に動けるようにならなければならないので、その為のカロリー摂取に使うのは全く問題ないわけだな。
 ほらほら、分かったら早く作って来てくれよ。俺はこれから顧客を探さにゃならんし」

「そーやって都合よく自分を騙してるから、一文無しになるんじゃないかしら……」

 なにやら白い目つきでこちらを見てくるコンスタンスの呟きも、久しぶりのランチを前にすれば気にならなかった。


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