過去ログ - 安斎都「ドレスが似合う女」
1- 20
16:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:02:16.50 ID:MEjdUG/c0
 瓶には『くどき上手』、というラベルが貼られていた。調べて見ると、その名前には「すべての人の心を、溶かすように魅了する」、という意味が込められているそうだ。
 ほんとうに、高垣さんらしいお酒だと思った。



17:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:05:58.33 ID:MEjdUG/c0
 翌日、私はある人を探していた。受け取ったお酒は事務所のスタッフではなく、高垣さんと交友のあるアイドルに託す必要がある。なにせ、私は高垣さんの仏前がどこにあるのか全く知らない。高垣さんと交友があり、なおかつ私が会える人間は、あいさん1人だった。
 私があいさんに出会ったのは、事務所に初めて入ったときのことだ。右も左もわからず、建物の中で迷っていた私を、あいさんが助けてくれた。
「どうしたんだい? 小さなホームズくん」
 以前からあいさんの評判を聞いていたけれど、直接会って実感した。私の手を引いてくれたあいさんは、日本中の女性が夢中になるのもしょうがないくらい、かっこよくて、温かかった。
 それから何度かレッスンで会ったり、一緒に昼食をとることもあった。探偵ドラマや推理小説について話すこともあった。私が一方的に話して、あいさんが優しく頷いてくれるだけだったけど、私は嬉しかった。
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:52:16.48 ID:MEjdUG/c0
 私はそっと姿を消そうとしたが、その前にあいさんに気づかれてしまった。
「おや、都くんじゃないか…ひょっとして見ていたのかい?」
「いいえ、私はあいさん以外なにも見えません」
 あいさんも、みんなと同じ笑い方をしているのが悲しくて、私は咄嗟にそんなことを言った。自分らしくない、キザなセリフだ。
「都くんは……いや、私になにか用かい?」
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:40:32.73 ID:MEjdUG/c0
川島さんが川端さんになっているじゃないか・・・・


20:名無しNIPPER[sage]
2017/04/18(火) 20:52:48.96 ID:MSVtGwQxo
お、康成ィ!


21:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:59:56.73 ID:MEjdUG/c0
 川島さんは郊外に邸宅を構えていた。ご立派ですね、と言うと、
「売れ続けないと維持できないわ」
 と笑った。私にとって久しぶりの、ただの笑顔だった。
 リビングに入ると、部屋は様々な酒瓶で埋め尽くされており、足の踏み場もないほどだった。
「大変なことになっているね…」
以下略



22:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 21:48:01.83 ID:MEjdUG/c0

 あいさんと別れたあと、私はすぐさま都内の香水専門店に向かった。私の推理思考、いや、推理嗜好はもう止まれなかった。冒涜的でもいい、最低だっていい。真実が知りたい!
 あのシーツに残された香りは、たしかにシトラスの香りだった。そして、高垣さんのプロデューサーはシトラスの香水を使っていたという。 
 シーツに香りが残る。その意味を想像すると、顔が熱くなった。
 しかしシトラスの香水は、お店にあるだけでも何百種類もあり、あの香りが高垣さんのプロデューサーのものだとは断定できない。私の嗅覚も、真実を探り当てられるほど正確ではない。現に、香りの嗅ぎすぎで、テスターの前で頭痛を覚えているくらいだ。
以下略



23:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 00:13:16.87 ID:t0Az6vrk0
 私は生前の高垣さんについて、それとなしに尋ねて回るようになった。みんな、怪しみもせずよく話してくれた。
 一番気にかかったのは、高垣さんが、担当の問題に関わらずプロデューサーとよく口論になっていたこと。内容は、『プロデューサーの香水の匂いがきつい』、『長時間の仕事はしたくない』、『歩いていける距離でも車で送ってほしい』など、高垣さんがプロデューサーに文句を言っているようなものだった。
 しかし、それが高垣さんの死に直結するようなことだとは思えない。
 仮に一件がプロデューサーによる他殺だったとして、動機になるほどのストレスを彼女から受けていたとは考えにくい。プロデューサーは346プロダクションに入社して、既に十年ちかく経っている。高垣さん以外にも担当する、あるいは担当したアイドルも数多くおり、ひどいワガママをいうアイドルは山ほどいただろう。
 自殺にしても、まだ押しが弱いという印象がある。トップアイドルの重責と言っても、彼女はモデルを経てアイドルになった、比較的経歴の長い女性だ。それなり下積み時代もあり、不愉快な思いをすることも多かっただろう。アイドルは皆そうだが、高垣さんの場合は特に、人並みはずれてストレスに強かったと考えられる。多少自分の思い通りにならなかったと言って、死ぬことはないはずだ。
以下略



24:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 00:31:28.71 ID:t0Az6vrk0
 他殺、あるいは自殺を引き起こすような強い衝撃。私は、あのちぎれたボタンを連想した。ボタンの太い縫い糸をちぎるような強い力。それを引き起こす感情。
 ボタンの正体をつかめば、何かわかるだろうか。とはいえ、車内に探偵好きメガネ好きのアイドルはいても、ボタンオタクのアイドルはいない。社外にも、ボタンだけで何かがわかるような人はいないだろう。
 考え込んでいると、私は人にぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
 相手は飛ぶ鳥落とす勢いの高校生アイドル、渋谷凛だった。嫌われでもしたらまずい、とすぐに謝ったが、彼女は特に気にしていなかった。
以下略



25:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 00:50:52.90 ID:t0Az6vrk0
 渋谷さんの反応に衝撃を覚えつつ、私は彼女のジャケットを観察した。一般的な紺色のスーツのジャケット。ただ、着古しているのか、ボタンが外れかかっているような箇所がある。
「渋谷さんのプロデューサーは、そのジャケットを愛用されているんですね」
「ん、そうだね。あんまり物持ちのいい方じゃないらしいから、スーツはこれと二着しかないって言ってたよ」
 渋谷さんが着ていたらまずいのでは、という言葉を飲み込んで、ジャケットをまじまじと見た。あのボタンは、スーツのジャケットのものかもしれない。
 ボタンの大きさからするに、シャツではなく、コートかジャケット類のボタンだということは想像できる。そして、今の季節は春。肌寒いといっても、社内や寮内ではコートを脱ぐだろう。
以下略



70Res/67.41 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice