過去ログ - 安斎都「ドレスが似合う女」
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18:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:52:16.48 ID:MEjdUG/c0
 私はそっと姿を消そうとしたが、その前にあいさんに気づかれてしまった。
「おや、都くんじゃないか…ひょっとして見ていたのかい?」
「いいえ、私はあいさん以外なにも見えません」
 あいさんも、みんなと同じ笑い方をしているのが悲しくて、私は咄嗟にそんなことを言った。自分らしくない、キザなセリフだ。
「都くんは……いや、私になにか用かい?」
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:40:32.73 ID:MEjdUG/c0
川島さんが川端さんになっているじゃないか・・・・


20:名無しNIPPER[sage]
2017/04/18(火) 20:52:48.96 ID:MSVtGwQxo
お、康成ィ!


21:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:59:56.73 ID:MEjdUG/c0
 川島さんは郊外に邸宅を構えていた。ご立派ですね、と言うと、
「売れ続けないと維持できないわ」
 と笑った。私にとって久しぶりの、ただの笑顔だった。
 リビングに入ると、部屋は様々な酒瓶で埋め尽くされており、足の踏み場もないほどだった。
「大変なことになっているね…」
以下略



22:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 21:48:01.83 ID:MEjdUG/c0

 あいさんと別れたあと、私はすぐさま都内の香水専門店に向かった。私の推理思考、いや、推理嗜好はもう止まれなかった。冒涜的でもいい、最低だっていい。真実が知りたい!
 あのシーツに残された香りは、たしかにシトラスの香りだった。そして、高垣さんのプロデューサーはシトラスの香水を使っていたという。 
 シーツに香りが残る。その意味を想像すると、顔が熱くなった。
 しかしシトラスの香水は、お店にあるだけでも何百種類もあり、あの香りが高垣さんのプロデューサーのものだとは断定できない。私の嗅覚も、真実を探り当てられるほど正確ではない。現に、香りの嗅ぎすぎで、テスターの前で頭痛を覚えているくらいだ。
以下略



23:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 00:13:16.87 ID:t0Az6vrk0
 私は生前の高垣さんについて、それとなしに尋ねて回るようになった。みんな、怪しみもせずよく話してくれた。
 一番気にかかったのは、高垣さんが、担当の問題に関わらずプロデューサーとよく口論になっていたこと。内容は、『プロデューサーの香水の匂いがきつい』、『長時間の仕事はしたくない』、『歩いていける距離でも車で送ってほしい』など、高垣さんがプロデューサーに文句を言っているようなものだった。
 しかし、それが高垣さんの死に直結するようなことだとは思えない。
 仮に一件がプロデューサーによる他殺だったとして、動機になるほどのストレスを彼女から受けていたとは考えにくい。プロデューサーは346プロダクションに入社して、既に十年ちかく経っている。高垣さん以外にも担当する、あるいは担当したアイドルも数多くおり、ひどいワガママをいうアイドルは山ほどいただろう。
 自殺にしても、まだ押しが弱いという印象がある。トップアイドルの重責と言っても、彼女はモデルを経てアイドルになった、比較的経歴の長い女性だ。それなり下積み時代もあり、不愉快な思いをすることも多かっただろう。アイドルは皆そうだが、高垣さんの場合は特に、人並みはずれてストレスに強かったと考えられる。多少自分の思い通りにならなかったと言って、死ぬことはないはずだ。
以下略



24:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 00:31:28.71 ID:t0Az6vrk0
 他殺、あるいは自殺を引き起こすような強い衝撃。私は、あのちぎれたボタンを連想した。ボタンの太い縫い糸をちぎるような強い力。それを引き起こす感情。
 ボタンの正体をつかめば、何かわかるだろうか。とはいえ、車内に探偵好きメガネ好きのアイドルはいても、ボタンオタクのアイドルはいない。社外にも、ボタンだけで何かがわかるような人はいないだろう。
 考え込んでいると、私は人にぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
 相手は飛ぶ鳥落とす勢いの高校生アイドル、渋谷凛だった。嫌われでもしたらまずい、とすぐに謝ったが、彼女は特に気にしていなかった。
以下略



25:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 00:50:52.90 ID:t0Az6vrk0
 渋谷さんの反応に衝撃を覚えつつ、私は彼女のジャケットを観察した。一般的な紺色のスーツのジャケット。ただ、着古しているのか、ボタンが外れかかっているような箇所がある。
「渋谷さんのプロデューサーは、そのジャケットを愛用されているんですね」
「ん、そうだね。あんまり物持ちのいい方じゃないらしいから、スーツはこれと二着しかないって言ってたよ」
 渋谷さんが着ていたらまずいのでは、という言葉を飲み込んで、ジャケットをまじまじと見た。あのボタンは、スーツのジャケットのものかもしれない。
 ボタンの大きさからするに、シャツではなく、コートかジャケット類のボタンだということは想像できる。そして、今の季節は春。肌寒いといっても、社内や寮内ではコートを脱ぐだろう。
以下略



26:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 22:40:34.17 ID:t0Az6vrk0
 
 高垣さんの調査を始めてから二週間後、私は華々しいドラマデビューをした。役名は「女子高生C」。ヒロインを演じる片桐さんの後ろを、3秒かけて通りすぎる重要な役だ…うん。
 欲を言えば探偵の役をやりたかったけれど、事務所も、世間も“16歳”の方に価値を置いている。
 私は撮影後の昼食中に、片桐さんにそんな相談をした。
「若さは使えるうちが華よ?」
以下略



27:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 23:05:04.99 ID:t0Az6vrk0
 プロデューサーとアイドル。シトラスの香水、ボタン、ジャケット、口論。レッスンも仕事もない休日、公園でハッカのパイプを吹かしながら、私は物思いにふけっていた。
 いままでの情報をまとめると、高垣さんのプロデューサーが彼女の死の直前に部屋にいた可能性がある。しかし、それでもやはり他殺にこじつけるのは無理があった。
 たとえば高垣さんをベッドに寝そべらせた状態で、無理やり睡眠薬と大量のお酒を飲ませれば、必ず身体のどこかにあざや、擦り傷などがつくだろう。警察としても、それを見逃すはずはない。あのボタンが部屋に残っているくらいだから、死体から自殺であったことは明らかなのだろう。
 そうなると、この一件は自殺とみて間違いない……ただ、自殺に至る経緯だけが分からない。高垣さんの死の理由がわからないかぎり、彼女を愛した他のアイドルも、ファンも、立ち直ることができない。私は自分の好奇心に、そういう大義を見つけ、調査を続行することに決めた。
 ただ、なんとも言葉にできない違和感を感じる。情報の収集が、なにかおかしい。
以下略



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